公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:日本のメーカーを撹乱させたスループット会計

従前ブログで、バックフラッシュ原価計算の話をしました。
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そのときに感じた「アゴのあたりのむず痒さ」を再発させるのが、今回取り上げるスループット(throuhput)会計です。 これは次の書籍によって広く知られるようになりました。 スループットとは、売上高から材料費を控除したものをいいます。 式で表わすと〔式1〕の通り。
〔式1〕
上掲の書籍がベストセラーとなったことにより、〔式1〕は革新的なものと評価され、コンサルティング業界などでは熱にうなされたようなブームとなりました。 その一方で、冷めた目で見ている人たちもいました。
1962年(昭和37年)に企業会計審議会が制定した会計基準原価計算基準』では、直接原価計算という制度設計が述べられています。 これは次の〔式2〕によります。
〔式2〕
上記〔式2〕にある「直接原価」には、材料費・外注費・直接労務費などが含まれます。 日本の企業を訪ね歩くと、『ザ・ゴール』が出版されるはるか昔から、〔式2〕の式で原価管理や利益管理を行なっている企業が存在しました。 そうした企業の中に、〔式2〕を次のように改変した企業も存在していました。

  1. 直接原価については、直接労務費を除いた、材料費と外注費に限定する。

  2. スループットという名称ではなく、限界利益を用いる。

そこで、〔式2〕を〔式3〕に書き改めます。
〔式3〕
    (売上高)-(材料費+外注費)=(限界利益
もう一度、念を押しておきますが、〔式3〕は、『ザ・ゴール』が出版されるはるか昔から、日本の多くの企業で採用されてきた事実があります。 その理由は次の通り。

  1. 材料費と外注費であれば、賦課できるから。

  2. オートメーション化と多品種少量生産により、ほとんどの労務費が賦課に馴染まなくなり、配賦されることになったから。

「賦課」や「配賦」については次の書籍77頁を参照のこと。 上記の書籍『ほんとうにわかる管理会計&戦略会計』は、2014年10月に大幅改訂を行ない、第2版としています。
さて、ニッポン企業のほとんどは、〔式3〕左辺の構成を「スループット」と呼ぶことを知らなかったために、〔式2〕の右辺にある「限界利益」の語を、〔式3〕に代用していました。 ただそれだけの話。 また、配賦対象となるコストが増大したことから生まれたのが、活動基準原価計算(ABC・ABM)です。 問題意識の点からすれば、スループット会計よりも、活動基準原価計算のほうが高いといえます。
上記〔式1〕〔式2〕〔式3〕のどれがいいか、というのは、重箱の隅をつついた議論です。 例えば「限界利益スループットとは、異なる概念だ」と主張する人がいますが、それは重箱の隅をつついた議論です。
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重要なのは、限界利益にしろ、スループットにしろ、これらには重大な欠陥があること。 その欠陥とは、稼働率などお構いなしに、設備投資をがんがん行なうと、限界利益スループットも、がんがん増大することにあります。
限界利益などの「欠陥構造」の恐ろしさについては、次のブログで、上場企業の具体的なデータを用いて証明しました。
ダイヤモンド・オンライン『大不況に克つためのサバイバル経営戦略』
第128回「アベノミクスでハローキティの付加価値が急落?       現代の会計理論が容認する情報システムによる隠蔽工作」 第141回「損益分岐点や限界利益は、暗愚が用いる指標なり       瑕疵ある理論からは瑕疵ある実務解しか導かれない
上記の内容をまとめて受賞の栄誉を得たものが、次の論文です。
上記論文の1ページ目にある「Ⅰ.損益分岐点分析や公式法変動予算が、企業実務で通用しない理由」をご覧いただくだけでもわかるように、スループット会計は「1次関数の単利計算構造」であり、何ら革新性がないことがわかります。
現実の企業活動は、どうなっているのでしょうか。 次に示す事実を観察することができます。
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。
    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。
    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。
    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。
    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。
    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。
    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。
    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
つまり、企業のコスト構造の本質は、複利計算構造にあることがわかります。 それを、単利計算構造のスループット会計で解き明かすことができるのかどうか。 複利運用された預金利息を、単利計算の式で検算できるのかどうか。 それがどれほど愚かな作業かは、小学生でもわかる話です。 スループット会計をありがたがるのは、管理会計原価計算などをロクに学習せず、アメリカ発であれば何でも飛びつく「欧米コンプレックス」の現われです。
いまも家電メーカーを中心に、幾度となくリストラに取り組んでも、業績が回復しない原因がわかりますか。 それは、スループット限界利益を信じて、設備投資をがんがん行ない、販社コスト(販売子会社への投資コスト)をばんばん投入した結果なのです。 自己責任を重んじる企業経営者としては、次のセリフは口が裂けても言えないでしょう。 いまだにリストラの呪縛から逃れられないのは、「あの本を信じたせいだ」とは。
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