公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:決算短信の業績予想に騙されてはいけない


決算短信の「業績予想」に騙されてはいけない

大型連休前後になると、上場企業の決算短信の開示がほぼ終わります。 決算短信で、投資家やメディアなどが最も注目するのは、1ページ目の最下段にある「業績予想」でしょう。
3月末決算の上場企業であれば、いまから5か月後の「2015年9月」と、11か月後の「2016年3月」の業績予想が開示されます。
日本の会計基準では、業績予想として、次の項目が開示されます。
  • 売上高
  • 営業利益
  • 経常利益(IFRS基準と米国基準では省略)
  • 当期純利益(制度上は「親会社株主に帰属する当期純利益」)
売上高を見誤る企業はいません。 問題となるのは、営業利益、経常利益、当期純利益の「信頼性」です。 これらの利益を予想するにあたっては、日本のみならず、欧米企業のすべてにおいて、CVP分析(損益分岐点分析)が利用されています。 なぜなら、原価や費用を、変動費と固定費とに分解しなければ、営業利益、経常利益、当期純利益を予想することができないからです。 このCVP分析(損益分岐点分析)が、いかに出鱈目な理論であるかは、次の受賞論文で証明しました。
上場企業でどれほどの実務家が集まろうとも、また、企業外部でどれほどの専門家が集まろうとも、上記の受賞論文にある「タカダ式操業度分析」を利用することは、著作権法上できません。 したがって、彼ら(彼女ら)はCVP分析(損益分岐点分析)を利用して、決算短信の「業績予想」に取り組むことになります。 ところが、これが、決算短信の「業績予想」への信頼性を、貶(おとし)めます。 業績予想に限らず、固定費、損益分岐点限界利益、貢献利益といった概念を用いている上場企業を見かけた場合、その上場企業は「理論上の瑕疵」があることを理解せずに、投資家へ説明していることを、投資家は冷めた目線で見る必要があります。
簡単な例で説明しましょう。 次の〔図表6〕は、上記の受賞論文に収録してあるものです。 論文の著作権者は私自身なので、盗用でもなんでもありません。
画像
第1段階として、企業のコスト構造が、点B(損益操業度点)から点C(予算操業度点)の間で分布していると仮定します。 CVP分析(損益分岐点分析)は、これを1次関数の「直線」で描きます。 その直線を縦軸へ延伸すると、縦軸上の点A(基準固定費)よりも少し下に着地します。 これがCVP分析の固定費です。
第2段階として、点Bから点Cの間で分布していたコストが、売上高の増加とともに点C(予算操業度点)近辺で分布することになったとします。 点CあたりでCVP分析の1次関数(直線)を描き、これを縦軸へ延伸すると、どうなるか。 答えは、第1段階のときのCVP分析の固定費よりも下に着地することになります。 つまり、社内で特に「固定費削減活動」などに取り組まなくても、売上高が点B→点Cへと増加する過程において、CVP分析の固定費は自然に減少していくのです。 これは、CVP分析の「理論上の瑕疵」が生む錯覚です。 ところが、企業経営者は誰一人として、この「理論上の瑕疵」に気づかない。 したがって、売上高の増加とともに、CVP分析の固定費が減少する様子を見て、「よしよし、よく頑張った」と現場を褒めるのです。 なんと愚かなことか。
第3段階として、点C(予算操業度点)から点D(最大操業度点)へ向かうとしましょう。 なお、最大操業度点Dから上に伸びた線分GDを、「タカダライン」と呼びます。 企業のコスト構造が、点Cから点Dの間に分布している場合で、CVP分析(損益分岐点分析)の1次関数(直線)を描き、それを縦軸へ延伸すると、CVP分析の固定費は「原点O」あたりに着地します。 つまり、CVP分析の固定費は、ゼロに近づくか、下手をすれば原点Oを下回ってマイナスになるのです。 セブン&アイHDやイオンなどの流通業に、CVP分析(損益分岐点分析)を適用すると、CVP分析の固定費がゼロ近くにまで低下する現象を観察することができます。 この点を捉えて、「流通業界は変動費型だ」と主張する専門家の、なんと多いことか。 流通業は「薄利多売」のビジネスモデルであるが故に、そのコスト構造は、点Cから点Dの間に分布します。 それを1次関数(直線)で描けば、当然、CVP分析の固定費は、ゼロに近づいてしまうのです。 「流通業界は変動費型だ」という主張は、如何に愚かなものであるかがわかります。
第4段階として、上場企業の有価証券報告書決算短信を利用して、これにCVP分析(損益分岐点分析)を適用すると、CVP分析の固定費がマイナスに転落するケースを、しばしば見かけます。 このカラクリは、どこにあるのでしょうか。 例えば、NTTや日産自動車などは、点D(最大操業度点)よりも右上に、コストが分布しています。 この状態で1次関数(直線)を描いて縦軸にまで延伸すると、CVP分析の固定費は原点Oよりも下になる(=マイナスに転落する)、というのがカラクリの正体です。
今回のポイントを整理しましょう。 企業のコスト構造は、1次関数の直線形ではなく、複利関数の曲線形で描かれるべきだ、ということです。 なぜなら、企業活動は、「日々複利の連鎖構造を内蔵している」からです。 それを論証したのが、上記「新日本法規財団 奨励賞 受賞論文」における「タカダ式操業度分析」です。 上記〔図表6〕は、タカダ式操業度分析に基づき、企業のコスト構造を、点A→点B→点C→点D→点Eの、複利曲線で描いています。 それに対し、CVP分析損益分岐点分析)は、1次関数の単利計算構造を採用しています。 これによれば、売上高が増加するにつれて、CVP分析の固定費は自動的に減少していくことになります。 その現象を見た企業経営者は錯覚に陥り、「よくやった」と、現場を褒めるわけです。 タカダ式操業度分析の場合、企業のコストが、点A→点B→点C→点D→点Eへと推移しても、縦軸上の点A(基準固定費)はほとんど動きません。 基準固定費が上下に激しく移動するのは、合併や会社分割など、劇的な変化がある場合に限られます。
上場企業は、「CVP分析の理論上の瑕疵」をまったく理解していません。 さらに問題があるのは、企業外部で分析レポートなどを作成する人たちもまた、「CVP分析の理論上の瑕疵」をまったく理解していないという事実です。 瑕疵ある理論からは、瑕疵ある実務解しか導かれない──。 決算短信の「業績予想」が「瑕疵ある実務解」であることを理解せず、企業内部の人も企業外部の人も一体、何を議論しているのだろう、と笑ってしまうのであります。
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