公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:超円高で騒ぎ円安でも騒ぐ為替感応度を知らぬばかりに


円高で騒ぎ、円安でも騒ぐ
為替感応度を知らぬばかりに


今回の話は、ダイヤモンド・オンライン第143回「円安で泣く者、嗤う者。日立製作所とセブン-イレブンの為替変動パニック度を測る」に、若干の手を加えたものです。
データが新しいか古いかが問題ではなく、「為替感応度」という仕組みを紹介して、「円安の損得勘定」を測定するのが、このブログ記事の趣旨です。
さて、、前世紀(20世紀)の産業構造が、現在も引き継がれているのであれば、昨今の円安相場は、ニッポンの産業にとって「得」なのでしょう。
ところが、先の民主党政権のもとで進んだ「超円高」によって、国内メーカーはその生産拠点を海外へ移転させ、産業の空洞化が進んでしまいました。
その証拠に、財務省が2014年8月に発表した『貿易統計速報(通関ベース)』によれば、貿易収支は2年以上も連続で赤字だといいます。 円安は、日本の産業に「得」をもたらさなくなってしまいました。
卑近な例で、「円安の損得勘定」を検証してみましょう。 日立製作所セブンイレブンのデータを利用します。 日立製作所は、1千社以上の連結子会社や持分法適用会社を抱えており、日本最大のコングロマリットといってもいい事業体です。 海外比率も半分を占めます。 これほどの企業集団ともなると、超円高や円安が、日立製作所にとって損なのか得なのかは、そうそうわかるものではありません。 セブンイレブンはいわずと知れた、国内で最大のコンビニ店舗を擁する事業体。 典型的な内需型とされ、輸出取引は行なっていないのだから、円安や円高にはニュートラルのような気がします。 ただし、一日に何度も配送を行なうトラックの燃料代は、円安の直撃を受けているかも。 ──日立製作所は、電機業界に属する企業だから円安は得だろう。 ──セブンイレブンは、内需型だから円安には無関係だろう。 などと文章だけで分析していては埒(らち)があきません。
日本経済新聞の電子版(2014年8月23日)において、ソフトバンク孫正義社長が、次の言葉を述べていました。
数字の裏づけのない資料の価値は、ゼロに等しい。
孫正義ソフトバンク社長
日本経済新聞電子版(2014年8月23日)
インターネットで、140文字程度で呟(つぶや)かれる経営分析では、その価値はゼロに等しいものがあります。 ということで、日立製作所セブンイレブン有価証券報告書を参照しながら、昨今の円安傾向が得なのか損なのか、数字の裏付けをとってみました。
次の〔図表1〕と〔図表2〕は、営業利益を横軸とし、円ドル相場を縦軸としたものです。 自民党の安倍政権が誕生した2012年12月期を挟んで描いています。
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〔図表1〕の日立製作所は、アベノミクスが始まる前の超円高時代において、損(減益)と得(増益)を繰り返していました。 円高が修正されて以降は、増益傾向を強めています。 〔図表2〕のセブンイレブンは、超円高時代でも増益基調にあり、その後の円高修正局面でも増益基調を保っています。 為替変動に無縁なことから、内需型といわれる根拠になっています。
〔図表1〕や〔図表2〕は、誰でも思いつく、凡庸な分析手法です。 いくら数値を使ったものとはいえ、分析資料としての価値はゼロに等しい。 そこで一計を案じました。 〔図表1〕や〔図表2〕は、各四半期を黒色の点で表わし、それを灰色の線で繋いだものです。 この灰色の線の「変化率」を求めると、どうなるか。 「曲線の変化率」は、高校のときに習った「微分」で対応できます。 その解析結果を時系列で展開したのが、次の〔図表3〕と〔図表4〕です。 縦軸の指標を「為替変動パニック度」としています。
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〔図表3〕の日立製作所は、アベノミクスが始まるまで、ぐっと堪え忍ぶ姿が読み取れます。 為替変動パニック度はマイナスを彷徨(さまよ)っているとはいえ、慌てた様子は読み取れません。 〔図表4〕のセブンイレブンは、超円高のピークであった、民主党政権末期まで、釣瓶落としの様相を示しています。 超円高時代でも増益を保ったとはいえ、かなりの経営努力があったことが読み取れます。 その後の円高修正局面から一気に回復を図っているのは、さすがにセブンイレブンです。 流通業界が内需型などと、誰が言い出したのでしょう。 〔図表4〕を見ると、セブンイレブンは思いっきり、為替変動への対抗策に、汗水を流す事業体であることがわかります。 数値の裏付けのない話には、ウソがあるようです。
〔図表3〕と〔図表4〕は、営業利益と円ドル相場の関係を使って、「微分」で解いたもの。 いまの学校教育では、微分積分などをほとんど教えずに、若者を社会へ送り出すようです。 数値の裏付けのない「文章だけの分析」が氾濫するは、「数学嫌い」の増加に比例しているのかもしれません。 ところで、以上とは異なる分析手法を用いたのが、次の〔図表5〕と〔図表6〕です。
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〔図表5〕と〔図表6〕とを「タカダ式為替感応度分析」といいます。 上記の図表の作図方法については、次の書籍の113ページ以降で説明しています。 日本経済新聞の過去1年間の記事で、「為替感応度」で検索すると、12件もヒットすることから、ポピュラーな用語です。 ところが、です。 日本経済新聞などのメディアに掲載されている「為替感応度」は、結果の金額だけ。 会計学や経済学の書籍や学術論文のどこを探しても、為替感応度の「計算方法」を解説したものは、まったく見当たらないのです。 私の探しかたが、不十分なのかもしれません。 しかし、「為替感応度の計算方法」が簡単に見つからないということは、「為替感応度の金額」自体、案外、出鱈目な方法で算出されている可能性があります。
「そんな、出鱈目な話があってたまるか」ということで、拙著『「高田直芳の実践会計講座「経営分析」入門』で解説しているのが「タカダ式為替感応度分析」です。 〔図表5〕と〔図表6〕で描かれている3本の実線の関係を示すと、次の〔図表7〕になります。
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タカダ式為替感応度分析の基礎は、経営分析の世界では古典的な名作とされる「利益増減要因分析」にあります。 利益増減要因分析は、「販売数量の増減率」をベースにして、「コストアップの要因」や、「営業利益の増減要因」を分析するものです。 販売数量という「数量ベース」に基礎を置いたものが利益増減要因分析であり、経営分析の世界で何十年もの間、語り継がれてきました。 ところで、売上高は「販売数量×販売価格」から構成されます。 「販売数量」を基礎に利益増減要因分析ができるのであれば、「販売価格」を基礎にしても利益増減要因分析ができるはずだ、と私は考えました。 さらにもう一歩踏み込んで、「販売価格」のところを「1ドルあたりの円価格」に置き換えても、利益増減要因分析ができるのではないか、と考えました。 それが「タカダ式為替感応度分析」という、オリジナルの分析道具として結実しました。 いわれてみれば、「ああ、そうか」です。 しかし、「ああ、そうか」と呟(つぶや)くまでに、何十万人もの学者や、何百万人もの実務家が、何十年にもわたって思いつかなかった仕組みが、〔図表7〕の計算式に、こめられています。
〔図表5〕と〔図表6〕の解析結果を見ていくことにします。 〔図表5〕の日立製作所の場合、アベノミクス以降、黒色の実線で描かれた「営業利益(トータル)の増減」の伸びに著しいものがあります。 ただし、その恩恵は、赤色の実線で描かれた「為替レートの変化による営業利益の増減」に負うところが大きいようです。 「実需に基づく営業利益の増減」が力を発揮するのは、その翌年以降になってからです。
〔図表6〕のセブンイレブンの場合、アベノミクスが始まるまでは、円高相場が、青色の実線で描いた「実需に基づく営業利益の増減」の足を引っ張っていました。 アベノミクスが始まって以降は、赤色の実線で描かれた「為替レートの変化による営業利益の増減」が業績の牽引役を果たしています。 その翌年以降は、青色の実線で描いた「実需に基づく営業利益の増減」が盛り返しているといえるでしょう。
ダイヤモンド・オンラインの第102回コラム「コンビニ市場は飽和状態か?セブン-イレブンにはまだ2倍の成長余力あり」では、セブンイレブンを扱いました。 このコラムを公開した当時は、コンビニ業界の店舗数が5万店に達し、メディアなどでは盛んに「コンビニ業界は飽和状態である」と指摘されていました。 それに対して私は、その第102回コラムで、セブンイレブンはさらに2倍の拡大余地がある、と述べました。 自分でも大胆な予測をしたものだ、と思ったものです。 事実はどう推移したか。 第102回コラムを公開して以降も、セブンイレブンの快進撃は続いていいます。 文章分析ではなく、数値に基づいた分析は嘘をつかないな、と納得したものです。 なお、〔図表5〕と〔図表7〕に共通しているのは、民主党から自民党への政権交代時に、3本の曲線がクロスしていることです。 政治と経済との間には、深い因縁があるようです。
前世紀までの常識でいえば、円安は輸出価格を引き下げ、量的拡大によって売上高を増大しようというインセンティブを働かせます。 ところが、今世紀になってからは、そうした常識はもはや通用しないようです。 円安になっても、輸出価格を引き下げない企業が多いようです(日本経済新聞「景気指標」2014年9月8日)。 売上高の最大化ではなく、利益を手厚く確保しようというのでしょう。 そうした利益重視の恩恵が、中小企業や消費者にまで浸透するのであれば問題ありません。 ところが、円安は、原材料などのコストアップ要因となり、大企業をコスト削減運動へと走らせます。 利益重視の恩恵が中小企業や消費者へ浸透する前に、「コストアップの玉突き」が先に浸透したのでは、目も当てられません。
みずほ銀行産業調査部の推計によると、10円の円安で上場企業は約2兆円の増益になるが、中小企業などは1兆3000億円の減益になるといいます(日本経済新聞2014年9月6日)。 円安もここが潮時、という声が大きくなるのも当然といえるかも。 超円高のときは円安を恋しく思い、超円安になれば少しくらいは円高に戻ったほうがいい、と不平をもらす。 これを「猫の寒恋(かんごい)」といいます。 冬の寒さに弱い猫であっても、夏の暑い盛りには冬の寒さを恋しく思うのです。 いまの円安相場をみて、あの超円高時代を恋しがる人は、どれくらいいるでしょうか。 円高時代に格差拡大を叫び、円安になればなったで格差拡大を叫ぶ人たちがいることに、ニッポン日本経済の閉塞感が募ります。
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