公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:自己資本比率ランキングの虚構


自己資本比率ランキングの虚構

2015年6月2日付の日本経済新聞「会社番付2015(5)」で、自己資本比率のランキング表が掲載されていました。 自己資本比率はその記事にもあるとおり、「財務の安定性」を示すものであり、これ自体は優れた経営指標です。
ただし、自己資本比率のランキング表を作成する意義があるのかどうか。 また、その記事の小見出し「製薬・ゲーム関連上位に」にもあるとおり、「なぜ」、製薬会社やゲーム会社が上位を占めるのか。
そうした事由を、きちんと理解しておく必要があります。
製薬会社やゲーム会社の自己資本比率が高いのは、リスクが高いビジネスモデルだからです。
新薬開発は成功する確率が低いものです。 たとえ開発に成功したとしても、実際に発売されるまでには、かなりの歳月を必要とします。 また、発売した薬によって副作用が生じた場合、巨額の損害賠償が発生するリスクがあります。 ゲームソフトについては、社運を賭けて開発したソフトが、必ずヒットするわけではありません。 こうしたリスクの高いビジネスモデルを扱う企業は、銀行借入金などの他人資本に頼ってはならず、自己資本で賄(まかな)うのが鉄則です。 株式投資やFX投資を、借金で行なってはならないのと同じ理屈です。
その反対に、数十万人・数百万人の消費者を相手とする流通業・鉄道事業・通信事業などは、リスクの低いビジネスモデルです。 こうした企業は、できるだけ多くの他人資本を調達することにより、規模の拡大を目指します。 それが収益の拡大にも結びつきます。 その結果、流通業などが、自己資本比率ランキング表の上位に食い込むことはありません。 かといって、流通業などは「経営の安定性が悪い」というわけでもありません。 本ブログ記事「キャッシュフローの話【その1】倒産確率デフォルト方程式」でも述べたように、流通業や鉄道事業は日々安定したキャッシュを稼ぐビジネスモデルですし、通信事業は毎月安定したキャッシュを稼ぐビジネスモデルです。 自己資本比率が低いという理由だけで、「財務が不安定だ」と決めつけることはできません。 以上の経緯については、次の拙著で詳述しています。 自己資本比率が高い企業は、企業価値を最大化していない可能性があり、今後、企業価値が大化けする可能性がある、という特徴も知っておきましょう。 これは、経済学で有名なMM理論によって証明することができます。 MM理論については、本ブログ記事「一般公式や実務解を示さずに「企業価値」を得意気に語る人々がいる」で説明しました。 そのときの〔図表2〕を、以下の【資料1】に掲げます。
【資料1】
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上記【資料1】において、自己資本比率の高い企業は、横軸上の点Hまたは点Gあたりに位置します。 点Gあたりでは、倒産リスクがまったくありません。 これが「経営が安定している」という意味です。
しかし、点Gに対応した点Bに相当する企業価値は、最大とはいえません。 点Jに対応した点Eのほうが、企業価値は高くなっています。 もし、リスクの低いビジネスモデルが目の前にあるならば、銀行借入金などの他人資本を増やす(点G → 点H → 点J)ことにより、企業価値をもっと高める余地があります。 逆説的なことを述べるならば、リスクの低いビジネスモデルを採用している企業であるにもかかわらず、自己資本比率のランキング表の上位に名を連ねている場合、その企業の経営戦略は消極的であるといえます。 しかも、「配当や自社株買いで株主還元」(前掲の日本経済新聞)もしないでいるのは、およそ上場企業らしからぬ所作だといえるでしょう。