公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:東芝の不適切会計問題を批判する資格のない人たち


東芝の「不適切会計問題」を
批判する資格のない人たち


会計学は通常、財務会計論と管理会計論とに分けられます(公認会計士法8条2項1号)。
学びかたとしては、最初に財務会計論、次に管理会計論、といったパターンでしょう。 簿記の仕訳に嫌気がさして、財務会計論の途中でギブアップしてしまう人が、それなりにいるかもしれません。
そこでです。 「管理会計論を学ばずに、財務会計論だけを学んだ人」が、東芝の「不適切会計問題」を批判するのは正しい。
それに対して、管理会計論をも含めた会計学を学んだ人が、東芝の「不適切会計問題」を批判するのは、お門違いも甚だしい。 その理由を、以下で説明しましょう。
会計学では、CVP分析というものを必ず学習します。 損益分岐点分析・限界利益分析・線形回帰分析とも呼ばれ、現代の会計学において、絶対的通説として君臨する理論です。 損益分岐点分析と限界利益分析とは、厳密には、次の関連ブログで説明するように異なるものなのですが、細部には拘らないことにします。
【関連ブログ】
そのCVP分析については、会計学を学んだ人が100万人いるとするならば、そのうちの99万9999人が「CVP分析は、絶対的に正しい」と信じている理論でもあります。
CVP分析は、次の【資料1】を用いて説明されます。
【資料1】CVP分析損益分岐点分析・限界利益分析・線形回帰分析)
画像
上記【資料1】の中空に「損益分岐点P」があり、ここから垂線を下ろしたところに「損益分岐点売上高Q」があります。 実際の売上高が損益分岐点売上高Qを超えると、売上高線は総費用直線を上回りますから、黒字決算=利益となります。 上記【資料1】において、実際売上高を横軸上の線分OXとすると、利益(黒字決算)は右端にある線分DCで表わされます。 線分DCで表わされる「利益」は、営業利益・経常利益・当期純利益、いずれも当てはめることができます。
上記【資料1】において、線分OXで表わされる実際売上高が2倍に増加すると、線分DCで表わされる利益も(2倍になるわけではありませんが)増加します。 線分OXで表わされる実際売上高が3倍に増加すると、線分DCで表わされる利益も(3倍になるわけではありませんが)増加します。 以上から明らかなように、会計学の基礎をなすCVP分析は、無限の利益拡大を保証する理論なのです。 損益分岐点売上高よりも右側で損失が発生する(赤字決算に転落する)ことを、決して認めない理論だ、と言い換えることができます。
2015年3月期の東芝で問題となったのは、ある決算期に負担させるべき費用を、翌期以降に繰り延べてしまった点にあります。 さて、ここで問題です。 ある決算期に負担させるべき費用を、翌期以降に繰り延べる会計処理が、どうして不適切の誹(そし)りを受けなければならないのでしょうか。 もし、ある決算期に負担させるべき費用を、正直にその決算期に負担させて損失になって(赤字決算に転落して)しまった場合、むしろ「無限の利益拡大を保証するCVP分析」に違反するではないですか。 「無限の利益拡大を保証するCVP分析」、すなわち、会計学の立場からすれば、損失になりそうな(赤字決算に転落しそうな)工事案件がある場合、費用の一部を翌期以降に繰り延べるのは、「極めて適切な会計処理」になるのです。 あるいは、CVP分析の正当性を信じる人は、「東芝の赤字案件は、上記【資料1】の損益分岐点Pよりも左下にあるのだ」と主張することでしょう。 そうであるならば、もっとがんがん、インフラ事業でも半導体事業でも安値受注すればいいのです。 やがては、損益分岐点Pを超えて、無限の利益拡大が実現されることでしょう。 それが、99万9999人が「正しい」と信じている、CVP分析の理論的な帰結です。 したがって、CVP分析に基礎を置いた会計学を学んできた人たちが、東芝の会計処理を「不適切だ!」と批判するのは、「お門違いも甚だしい」となるわけです。
もちろん、いま述べたことは詭弁です。 どこに誤りがあったのでしょうか。 「誤謬の原因」は、上記【資料1】のCVP分析そのものにあります。 空調のきいた部屋でぬくぬくと暮らしているのではなく、企業実務の最前線で汗水流して取り組んでいると、次の事実を観察することができます。
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。

    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。

    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。

    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。

    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。

    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。

    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。

    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 株式市場や仮想通貨市場を観察してみてください。

    • 人気が沸騰すればするほど、限りなくゼロに近い時間軸の中で、膨大な数の取引が行なわれます。

    • 買いが買いを呼び、売りが売りを呼ぶその経済現象は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
  • マクロ経済の産業連関表を観察してみてください。

    • ある産業で生産された中間財は次の産業へ投入され、そこで生産された中間財は次の産業へと投入されていきます。

    • その流れは、マクロ経済レベルで、無限連鎖の複利計算を行なっていくことと同じです。
すなわち、企業のコスト構造やミクロ・マクロの経済構造は、無限回数で連鎖する複利計算機構を内蔵していることがわかります。 この「無限回数で連鎖する複利計算」を、数学で突き詰めていくと、「自然対数の底e」という超越数に収束します。 それを数式や図表にまとめて、賞を得たものが、次の【資料2】に示す論文です。
【資料2】
上記【資料2】に収録してある図表を手直ししたものを、次の【資料3】に掲げます。
【資料3】タカダ式操業度分析
画像
上記【資料3】にある総費用曲線ABCDEは、複利関数(正確には「自然対数の底e」を用いた指数関数)で描かれています。 この図表は、次の関連ブログからの再利用です。
【関連ブログ】
企業の業績が、上記【資料3】の赤色の点A1にあるとき、利益は線分A1A2の高さで表わされます。 企業の業績が向上し、上記【資料3】の赤色の点B1にあるとき、利益は線分B1B2の高さで表わされます。 企業の売上高が、赤色の点A1 → 赤色の点B1 → 黒色の点C → 赤色の点C1、へと増加していくとき、利益(線分A1A2や線分B1B2)も増加していきます。 ところが、上記【資料3】では、利益が無限に拡大することを保証していません。 企業の売上高が、黒色の点Dを超えて、赤色の点D1にあるとき、線分D1D2の高さは縮小に転じます。 赤色の点E1にあるとき、線分E1E2の高さはさらに縮小します。 すなわち、企業のコスト構造は「日々複利の計算構造である」と捉えた場合、利益は無限に拡大するものではない、という理論的な帰結が導かれます。 したがって、ある決算期に負担させるべき費用を、翌期以降に繰り延べる会計処理は「不適切だ」となります。
今回、東芝で問題視されている「不適切な会計処理」は、上記【資料3】の右上にある「収益上限点E」を突き抜けてしまったのでしょう。 収益上限点Eよりも右側では、総費用曲線が売上高線を上回りますから、確実に損失が発生します。 収益上限点Eよりも右にある状態を、【資料1】の絶対的通説に合わせようとするならば、「不適切な会計処理」を行なわざるを得なくなる、というわけです。 以上のように、東芝の不適切会計を批判できるのは、上記【資料3】の場合に限定されます。 これが、99万9999人に対して、たった一人で対抗する「タカダ式操業度分析」です。 日本だけでなく欧米の書籍や学術論文などで、この百年以上もの間、誰一人として語らなかった理論が、上記【資料2】の受賞論文や【資料3】の図表に込められています。
翻(ひるがえ)って、上記【資料1】にある総費用直線は、1次関数で描かれています。 1次関数とは、単利計算構造のこと。 すなわち、現代の会計学の基礎をなすCVP分析の本質は、単利計算構造に基礎を置いていることがわかります。 企業のコスト構造は複利計算構造を内蔵しているにもかかわらず、それを単利計算構造のCVP分析で解き明かそうとするのが、そもそもの「お門違い」。 CVP分析(損益分岐点分析・限界利益分析・線型回帰分析)を信奉している人たちに警告しておきます。 損益分岐点を超えると「利益は無限に拡大するのだ」と主張するあなたがたに、東芝の不適切会計問題を批判する資格はないのだということを。
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