公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:CVP分析の固定費はなぜマイナスになるのか

更新:2016/09/06
CVP分析(損益分岐点分析)の固定費は
なぜ、マイナスになるのか


先日、東京へ向かう東北新幹線の車中で、日本経済新聞社のeラーニングの担当者からメールが届きました。
受講者からの質問でした。 そのeラーニングの中で私が紹介している最小自乗法(最小2乗法)に基づき、具体的な企業について固変分解を行なったところ、「固定費がマイナスになってしまいました。どうしてですか?」というのが質問の内容でした。
「固定費がマイナスになる」というのは、「変動費率が1よりも大きくなる」と同義です。 私が、はるか以前から悩んでいた問題を、この受講生も気がついてくれたのだなと。
日本経済新聞社のeラーニングは、【資料1】の通りです。
【資料1】
上記のeラーニングは、管理会計を初めて学ぼうという人のための、初級編から中級編までを扱ったものです。
伝統的な管理会計論が到達した通説を、平易に解説することを目的として編集しました。
日経eラーニング「よくわかる管理会計入門」では、伝統的な通説の例に倣い、管理会計の基礎理論となるCVP分析も紹介しています。 【資料2】の図表に基づくものです。
【資料2】CVP図表(損益分岐点図表・線形回帰図表)
画像
上記【資料2】を利用して展開する理論を、CVP分析といいます。 別名を、損益分岐点分析・限界利益分析・線形回帰分析ともいいます。 上記【資料2】の図表で問題となるのは、縦軸の点Aから、右上がりの総費用直線(線分AC)を、どうやって描くか、にあります。 これを描くにあたっては、線型回帰分析を利用した、次の方法があります。
【資料3】

  1. 最小自乗法(最小2乗法)

  2. 費目別精査法

  3. 勘定科目法

上場企業の有価証券報告書では勘定科目が開示されないので、【資料3】1. の最小2乗法を使おうという発想が、20世紀初頭のアメリカの会計学界で生まれました。
【関連ブログ】
最小自乗法そのものは、ドイツの数学者ガウス(1777~1855)が、20歳くらいのときに、惑星の軌道を計算するために考案したとされています。 線形回帰分析を利用した最小自乗法の計算方法については、次の拙著124ページを参照してください。 2014年10月に、第2版を刊行しています。 最小自乗法は、上記【資料2】にある総費用直線(線分AC)を、1次関数( )で表わす点に特徴があります。
とここで、少し時間があったので、東京駅の改札を抜け、「OAZO 丸善書店」へ行くことにしました。 1階はビジネス書が中心です。 「会計」と表示された書棚へ行くと、タイトルに管理会計原価計算・経営分析の語を用いた書籍が、あるわあるわ。 パラパラとめくると、そのすべてに上記【資料2】と同じものが掲載されていました。 書棚には、アメリカの会計学者の翻訳本もあって、そこにも上記【資料2】と同じものが掲載されていました。 日本でもアメリカでも、20世紀初頭から21世紀の現在に至るまで、上記【資料2】の図表が、コピー&ペーストされてきた事実を確認することができます。 20冊ほどを見たところ、固定費がマイナスになる現象に言及している書籍は1冊もありませんでした。 当然、固定費がマイナスになる原因も記述されていません。 ましてや、それをどう克服するか、といった問題意識を持った書籍は、1冊もありませんでした。
日本経済新聞社のeラーニング「よくわかる管理会計入門」は、初学者向けです。 管理会計を学び始めて3か月くらいの人が、固定費がマイナスになる現象に気がついているのです。 私は、公認会計士として生計を立て始めた頃すでに、この問題を認識していました。 ところが、丸善書店の書棚に鎮座している20冊ほどの専門書はいずれも、固定費がマイナスになる現象には言及していないのです。 これが「権威」や「第一人者」と呼ばれて、「象牙の塔」の中でふんぞり返っている人たちの正体です。
丸善書店で長居をしているわけにはいかないので、固定費がマイナスになる理由を簡単に説明しておきます。 次の【資料4】の方法で、企業のコスト構造を描く方法を、「タカダ式操業度分析」といいます。
【資料4】タカダ式操業度分析
画像
以前は、SCP分析( Sales Cost and Profit Analysis )と称していましたが、現在では、タカダ式操業度分析の名称で統一しています。 上記【資料4】では、企業のコスト構造は縦軸の点Aから始まり、点A→点B→点C→点D→点Eへと、複利曲線上で展開されるもの、としています。
上記【資料4】を描くキッカケは、私の実務経験に基づきます。 すなわち──、
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。
    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。
    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。
    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。
    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。
    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。
    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。
    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
以上のように、製造業や流通業を問わず、企業のコスト構造は、無限回数の複利計算構造を内蔵していることがわかります。 その発想に基づいて描いたのが上記【資料4】の図表であり、それを論文にまとめて受賞の栄誉を得たものが次の【資料5】です。
【資料5】

上記【資料4】において、企業のコスト構造が点D(最大操業度点と表示)あたりにある場合で、そこから上記【資料2】の教えの通りに1次関数( )を描くと、その直線は原点Oよりも下に着地します。 これが、固定費がマイナスになる(変動費率が「1」よりも大きくなる)理由です。 上記【資料4】にある点D(最大操業度点)は、経済学でいう利潤最大化条件(限界収入MR=限界費用MC)を満たすところであり、線分GDを「タカダライン」と呼びます。 企業業績が「史上最高益を更新!」と、はしゃぐ状態のとき、上記【資料2】のCVP分析の固定費はマイナスに転落している可能性があります。 以上の現象については、次の関連ブログでも説明しました。
【関連ブログ】
上記の【関連ブログ】では、企業業績が向上するにつれて固定費が「自動的に減っていく」事象に気づこうともせず、企業の原価低減努力を誉めそやす愚かさを説明しました。 上記【資料2】のCVP分析(損益分岐点分析・限界利益分析)はつくづく、愚論であることがわかります。 なお、線形回帰分析そのものが愚論だと述べているわけではありません。 企業のコスト構造を解明するにあたり、線形回帰分析を当てはめる方法論が愚論だ、と述べているのです。
タカダ式操業度分析の場合、企業のコスト構造が、上記【資料4】の──  ・点Bから点Cの区間に分布しようとも、  ・点Cから点Dの区間に分布しようとも、  ・点Dから点Eの区間に分布しようとも、 縦軸の点A(基準固定費と表示)に着地します。 マイナスに転落するような醜態を曝(さら)すことはありません。
丸善書店の書棚に並んでいる20冊ほどの執筆者は、私よりも偏差値が高い方々です。 私は英会話がまったくできないので、アメリカの会計学者やMBAホルダーには歯が立ちません。 しかし、20冊の書籍が束になってかかってきても、上記【資料4】や【資料5】のタカダ式操業度分析は負けない自信があります。
ところで、20冊ほどの書籍を見ていて他に気づいたのは、EBITDAやら、EVAやら、NOPAT(税引き後の営業利益)やら。 特に、EVA(経済的付加価値)を経営指標として採用する上場企業が増えてきているようです。 会計の世界って、ホント、欧米に媚びへつらう「提灯持ち」ばかりだなと。 固定費がマイナスに転落する問題を解決せずに、あなたがたは何をやっているんだか。
【関連ブログ】
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