公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:有償支給のカラクリはどのようにして悪用されるのか


有償支給のカラクリは
どのようにして悪用されるのか

『高田直芳の実践会計講座 原価計算』
補足説明


東芝問題で話題となった、部品や材料の有償支給。 専門家からすれば当たり前の会計処理なのですが、初めて聞く人にとっては、何が何だかわからぬ話。
有償支給の問題については、次の関連ブログで、すでに言及しました。
【関連ブログ1】
今回は、ノートパソコンを例にして、「有償支給のカラクリ」と、それをどのようにして悪用すると「粉飾決算になるのか」を説明しましょう。
次の3社を想定します。

  • 電機業界で圧倒的なブランドを誇る企業を、A社。

  • そのA社に、液晶画面を供給するメーカーを、B社。

  • 液晶画面に半導体部品などを組み合わせて、ノートパソコンを組み立てるメーカーを、C社。

以前、次の関連ブログで、企業会計審議会『原価計算基準』が定める工程別原価計算のルーツは、240年前の、アダム・スミスの『国富論』で語られた「ピン工場の分業化」にあることを紹介しました。
【関連ブログ2】
工程別の分業を、企業レベルで分担して行なうのが、今回の話です。
庶民的な感覚からいえば、液晶画面メーカーのB社は自ら作った液晶画面をC社に輸送し、C社はその液晶画面に半導体部品を付加してノートパソコンを完成させ、C社が自ら販売すればいいだけの話。 液晶画面メーカーのB社が、C社の販売代理店を務めてもいい。 A社が登場するまでもない。 ところが、残念ながら、液晶画面メーカーのB社と、組み立てを請け負うメーカーのC社の2社が結託したくらいでは、そんなノートパソコンは消費者に見向きもされません。 B社にもC社にも、消費者への訴求力がないからです。 そこで、圧倒的なブランドを持つA社が登場します。
A社が行なう仕事は、A社の社名をノートパソコンの表面に印字し、それを梱包する段ボールにもA社の社名を印刷するだけです。 日本の自動車業界や電機業界で、圧倒的なブランドを持っている大企業の特徴は、出荷する直前の完成品(自動車や電気機器)に、自社のブランドを刷り込むだけなのです。 これを「完成品メーカー」といいます。 完成品メーカーの下に、無数の「協力工場」というものが、ぶら下がります。 これが、製造業における「ピラミッド構造」です。
ああ、そうだ。 次の2つの点を忘れていました。 1つめは、A社は最終工程だけに関わるのではないのでした。 企画と開発を手がけるのも、A社の仕事です。 つまり、入り口(企画・開発)と、出口(完成品)の両端を握っているのが、完成品メーカーの特徴です。 中間(製造工程)は、海外のメーカーに委ねます。 これが「産業の空洞化」です。 2つめは、入り口(企画・開発) → 中間(製造工程) → 出口(完成品)のいずれも、実はそんなに儲(もう)からない商売なのです。 最も儲かるのは、販売する製品に、リースやローンなどの金融機能を付加するときです。 ですから、自動車業界や電機業界のセグメント情報を参照すると、「金融」というセグメントが、最も高い収益を上げていることがわかります。
先ほどは、B社が生産した液晶画面を、C社へ輸送しました。 A社が介在すると、この流れが変わります。 以下は、A社の視点で説明します。
【資料1】

  1. A社はB社から、液晶画面を1万円で仕入れます。

  2. A社はこの液晶画面を、C社へ2万円で売却(支給)します。

  3. C社で組み立て作業が終わったら、A社はC社から3万円で仕入れます。

上記【資料1】 2. と 3. の取引を、有償支給といいます。
無償支給という方法もあります。
【資料2】

  1. A社はB社から、液晶画面を1万円で仕入れます。

  2. A社はこの液晶画面を、C社へ無償で与えます。

  3. C社で組み立て作業が終わったら、A社はC社から1万円(C社の加工賃)で仕入れます。

無償支給の弱点は、C社にリスク意識が欠如することです。 C社が加工に失敗した場合、その損失はA社が負います。 C社にリスク意識を持たせ、C社が加工に失敗した場合、その損失をC社に負わせようというのが、【資料1】の有償支給のメリットです。
上記【資料1】の 2. ではA社に売上高2万円が計上され、3. でA社に仕入高3万円が計上されます。 差額の1万円は、C社の加工賃です。 そして、A社の売上高2万円と、仕入高3万円のうちC社の加工賃1万円を差し引いた2万円とを相殺消去するのが、有償支給に係る「正しい会計処理」です。 以上の、有償支給と無償支給に係る会計処理については、法人税や消費税の問題をも絡めて、次の拙著196ページ以降で詳述しています。 税務問題をナメてかかると、あとで手痛いシッペ返しがあるので、十分に注意しましょう。
ところで、ここで、A社のライバル企業であるD社が、C社にアプローチしたとします。 D社は「ふむふむ、A社からC社へ卸している液晶画面の単価は2万円なのか。そうなると、A社がB社から仕入れている液晶画面は、その半分の1万円くらいかな」と推測できてしまうのです。 これでは、A社の価格情報が、ライバル企業のD社へ筒抜けになってしまいます。
そこで、A社では一計を案じ、次の有償支給を画策します。
【資料3】

  1. A社はB社から、液晶画面を1万円で仕入れます。
    →【資料1】と同じ。

  2. A社はこの液晶画面を、C社へ52万円で売却(支給)します。

  3. C社で組み立て作業が終わったら、A社はC社から53万円で仕入れます。

上記【資料3】の場合、D社が、C社から入手する液晶画面の価格は、52万円です。 これではD社は、A社の価格情報を推測することができなくなってしまいます。
A社としては、【資料3】の有償支給の方法を採用することで、もう一つ、大きなメリットを得ます。 それは、C社が、A社から仕入れた液晶画面を、他社(E社やF社)などに転売できなくなることです。 液晶画面が52万円もするのでは、C社は、A社へ「戻す」しかなくなるわけです。 ここまでは、【資料3】の価格付けが異常に高かろうが、至極まっとうな取引であり、異論を差し挟む余地はありません。
ところが、この先に、悪魔が「おいで、おいで」と手招きをしているのです。 もし、【資料3】の 2. の時点で、A社が決算を迎えたとしましょう。 上記【資料3】の 2. の取引では、52万円のうち、51万円は、A社にとって「実現していない利益」(未実現利益)なのですから、相殺消去しなければなりません。 相殺消去しなければならない理由は、A社からC社に対し、買い戻し特約を付しているからです。 A社とC社との間で生じた未実現利益は、これを相殺消去するのが、有償支給を採用する場合の、A社が守るべき鉄則なのです。 ところが、A社の中で、悪魔の誘いに乗ってしまった社員は、上記【資料3】2. の時点で決算を迎えたとき、意図的に相殺消去を行なわないのです。 液晶画面1枚に付き、51万円もの利益を稔出できるのですから、A社にとって、これほど「おいしい話」はありません。
かつて、証券会社で問題となった「飛ばし」も、買い戻し特約があったにもかかわらず、証券会社は転売益をそのまま損益計算書に計上したのでした。 手を替え品を替え、企業はいろんな知恵をしぼります。 それにしてもなぁ、東芝の場合、有償支給のやり取りを、企業内部の監査部門や、企業外部の監査法人が見抜けなかったとなると、どんだけ複雑な細工をしていたんだか。 粉飾決算の事例でときどき聞くのは、粉飾決算に手を染めた担当者が、「途中から、自分でも何が何だかわからなくなっちゃった」と告白するのがあります。 粉飾決算の当事者が「わからなくなっちゃった」のであれば、監査をするほうも「わからなくなっちゃった」のでしょう。
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