公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:会社法に翻弄される当期純利益と自己資本利益率ROE

日本経済新聞で、2015年7月17日と18日の2回に分けて、「ほどける株式持ち合い」というタイトルの記事が掲載されていました。
話題の中心は、自己資本利益率ROE( Return On Equity )。
今回は、自己資本利益率ROEの計算構造の話です。
2015年3月31日までの「当期純利益」と、2015年4月1日以降の「当期純利益」が、まったく異なるものであることを、ご存じでしょうか。
連結損益計算書の「税金等調整前当期純利益」以降の様式を、次の【資料1】に示します。 出典は、企業会計基準委員会『企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準』です。
【資料1】

2015年3月まで

2015年4月以降

税金等調整前当期純利益 法人税等・法人税等調整額 少数株主損益調整前当期純利益 少数株主利益

当期純利益
税金等調整前当期純利益 法人税等・法人税等調整額 当期純利益 非支配株主に帰属する当期純利益
(非支配株主に帰属する
四半期純利益) 親会社株主に帰属する当期純利益
(親会社株主に帰属する
四半期純利益)
上記【資料1】において、マーカーの色で対応させている項目が、変更箇所です。 スマートフォンでは表が崩れるので、注意してください。 2015年3月まで「少数株主損益調整前当期純利益」となっていたものが、2015年4月以降は「当期純利益」に昇格しました。 2015年3月まで「当期純利益」となっていたものが、2015年4月以降は「親会社株主に帰属する当期純利益」に降格しました。
近年、自己資本利益率ROEを経営指標の中核に置く上場企業が急増しています。 キッカケは、2014年8月に、経済産業省の後ろ盾によって公表された「伊藤レポート」。 最初、「1人で、このレポートをまとめたんすか。すごいな」と感嘆して読んでいたら、レポートの最後に、座長以下、何十人もの連名が、ずらずらっと。 「ああ、そういうことなんですね」と納得しました。
自己資本利益率ROEを「経営指標として採用せよ」などということを、経済産業省が法令で定めることはできません。 会計基準の「外」となると、行政指導しかないわけで。 経営指標でさえ、役人は、行政指導の対象としてしまうのだなと。 役人から「右へ倣え」と命令されると、みんなで右を向くのは、日本の伝統芸です。
それは別にどうでもいい話。 気になるのは、自己資本利益率ROEは、どうやって求めることになるのだろうか、ということ。 上記【資料1】の項目を用いて、以下の計算式を組み立ててみました。 なお、「新株予約権」は省略しています。 まず、2015年3月まで、自己資本利益率ROEは、次の【資料2】の計算式で求めることとされていました。
【資料2】親会社説(2015年3月まで) (自己資本利益率ROE)=
     (当期純利益)      (純資産)-(少数株主持分)
2015年4月以降、自己資本利益率ROEは、次の【資料3】の計算式で求めることになりました。
【資料3】親会社説(2015年4月以降) (自己資本利益率ROE)=
  (親会社株主に帰属する当期純利益)   (純資産)-(非支配株主持分)

注意したいのは、日本の会計基準は、経済的単一体説ではなく、親会社説に立脚していること。 親会社説と経済的単一体説の「対立」は、次の拙著127以降で詳述しています。 上記【資料2】の分子にある「当期純利益」は、当期純利益と表示していますが、これは親会社説に基づいているので、その実体は「親会社株主に帰属する当期純利益」です。 そのため、上記【資料2】の分母では、「純資産」から「少数株主持分」を減算しています。 上記【資料3】の分子(親会社株主に帰属する当期純利益)と分母(純資産-非支配株主持分)は、【資料1】の「2015年4月以降」の項目を用いています。 親会社説に立脚していることを、より明確にすることができたといえるでしょう。 なお、2015年3月までの「少数株主持分」は、2015年4月以降、「非支配株主持分」へ名称変更されています。
ところが、ここで、困った問題が起きました。 国際会計基準(IFRS基準)は、親会社説ではなく、経済的単一体説を採用しているからです。 したがって、外国の企業の自己資本利益率ROEを、上記【資料1】にある2015年4月以降の項目を用いて表わすと、次の【資料4】になります。
【資料4】経済的単一体説(2015年4月以降) (自己資本利益率ROE)=
  (当期純利益)   (純資産)
上記【資料3】は、親会社説(2015年4月以降)に基づいた自己資本利益率ROEの計算式です。 日本の企業は現在、上記【資料3】の計算式に基づいて、自己資本利益率ROEを算出しています。 それに対して、上記【資料4】は、経済的単一体説(2015年4月以降)に基づいた自己資本利益率ROEの計算式です。 外国の企業は、上記【資料4】の計算式に基づいて、自己資本利益率ROEを算出しています。
そこで問題です。 上記【資料3】の自己資本利益率ROEと、【資料4】の自己資本利益率ROEとは、理論的に異なるものなのでしょうか。 例えば、経済的単一体説における当期純利益を10、純資産100と仮定します。 これらの値を、【資料4】の計算式に代入すると、次の【資料5】の通り、自己資本利益率ROEは、10%になります。
【資料5】経済的単一体説(2015年4月以降) (自己資本利益率ROE)=
  (当期純利益 10)   (純資産 100)
  =10%

次に、非支配株主持分の割合を、20%と仮定します。 すなわち、親会社持分の割合は、80%になります。 したがって、親会社株主に帰属する当期純利益は、8(=10×80%)になります。 非支配株主持分は、20(=100×20%)になります。 これらの値を、【資料3】に代入すると、次の【資料6】の通り、自己資本利益率ROEは、10%になります。
【資料6】親会社説(2015年4月以降) (自己資本利益率ROE)=
  (親会社株主に帰属する当期純利益 8)   (純資産 100)-(非支配株主持分 20)
  =10%

上記【資料5】の経済的単一体説の自己資本利益率ROEと、【資料6】の親会社説の自己資本利益率ROEとを、そのまま比較すると、「何も問題ない」という結論になります。 すなわち、(経済的単一体説に基づいている)外国の企業の自己資本利益率ROEと、(親会社説に基づいている)日本の企業の自己資本利益率ROEとを、単純比較しても「問題ない」という結論になります。 ただし、理論的に同じであるならば、【資料6】よりも、【資料5】のほうが、計算を間違える確率は低くなるでしょう。 計算ミスというリスクを考慮するならば、【資料5】のほうが優れています。
それなのに、なぜ、日本では、【資料3】や【資料6】の計算式で、自己資本利益率ROEを計算するのでしょうか。 理由は、日本では、会社法の人たちが、非常に強力な勢力を保っているからです。 定時株主総会の決議対象が、連結財務諸表ではなく、個別財務諸表であるのが、一つの証拠。 「のれん」が、減損処理ではなく、均等償却になるのも、一つの証拠。 2015年3月期まで、「親会社株主に係る当期純利益」が、当期純利益とされてきたのも、一つの証拠 個人的に、会社法は好きな法律です。 会社法がうまく立ち回ってくれると、会計の世界も、随分と見晴らしのいいものになるのだけれどなと。