公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:在庫の作り溜めで逃げ切った人たちの高笑いが聞こえる

タカダ式原価計算&管理会計システム 不正会計&監査の蹉跌 すべてを表示

在庫の「作り溜め」で逃げ切った人たちの
高笑いが聞こえる

『高田直芳の実践会計講座 原価計算』補足説明

今回は、東芝の第三者委員会調査報告書(要約版)「第5章 ディスクリート、システムLSIを主とする半導体事業における在庫の評価に係る会計処理」について学びましょう。
ディスクリートは「単機能の半導体」、システムLSIは「複雑機能の半導体」と理解しておけばいいらしい。
調査報告書61ページの例示(勘定連絡図)を見ていたとき、「これって、おかしいのではないか」と勘違いしてしまいました。 間接費を配賦基準にして、間接費をさらに配賦するように見えてしまったからです。
私の勘違いでした。 「間接費の予定配賦」ではなく、「原価差額の決算配賦」ですから、調査報告書61ページの勘定連絡図は、これで正しい。
決算配賦って何? という場合は、次の拙著596ページ以降を参照してください。 予定配賦や決算配賦の仕組みを理解していないと、読者が属する企業でも同様の粉飾決算処理が行なわれる確率が高いことを、保証しておきます。
第三者委員会が調査報告書の第5章で糾弾しているのは、事例にもある通り、前工程の予定配賦率を「@1円」から「@2円」へ変更したにもかかわらず、後工程の予定配賦率を「@1円」のまま据え置いた点にあります。 後工程の予定配賦率を据え置いた仕組みに、思わず「うまいっ!」と膝を打ってしまいました。 システムはすべて連動しているもの、と思い込んでいる者の盲点をついた仕組みです。 会計監査人も、随分とコケにされたものだなと。
前工程での変更が、後工程に自動的に反映されないということは、前工程と後工程の間に「人の手」が介在していることを意味します。 東芝原価計算システムでは、この盲点を利用するために、手作業で工程間の振り替え処理を行なっているのでしょう。 大企業だから、きっとすごいコスト管理のシステムを導入しているのだろうな、という先入観は誤りであることがわかります。 システムをすぐに入れ替えることはできないので、昨日も今日も膨大な人海戦術を展開して、「手入力作業」を行なっているのでしょう。 「コストを管理する者を監視するために、さらにその者を監督する者を監査する者のために支出を要する管理コスト」が、ものすごい金額にのぼっている可能性があります。 こういう内部統制の仕組みを、「屋下に屋を架し、屋上に屋を架す」といいます。
第5章を読んでいて、「おや?」と首を傾げたのは、第三者委員会は、合算配賦法よりも、工程別配賦法のほうが「より精緻な方法」であるとしている点でした。 原価計算管理会計を専門とする私からすれば、第三者委員会のこの考えは「違うぞ」と言わざるを得ません。
理由の第一は、日本では、「システムが複雑であるほど、原価の精度が高まる」と勘違いしている人が非常に多いことです。 これは関連ブログ『バイセル取引とマスキング価格の裏に潜む怪物』でも指摘しました。 計算構造を「より精緻」にしたからといって、原価の精度が高まることはありません。 問題の本質は、工程を2以上に分けて複雑化させてしまったために、企業側に粉飾する余地を与え、しかも、会計監査人側で容易に見抜くことができないようにしてしまった点にあります。 ちまちまとした原価計算は、「コストを管理する者を監視するために、さらにその者を監督する者を監査する者のために支出を要する管理コスト」を増やし、逆に「原価の精度」を低めることになります。
理由の第二は、原価差額は「雑多な集合体」であり、こんなものに「より精緻な方法」を求める意義は乏しい。 製造間接費の予定配賦と、原価差額の決算配賦とを混同している気がします。 カナヅチなどを使って人がとんてんかんと手作りする時代ならともかく、ITを駆使した機械装置を監視しながら多品種少量の製品を作ることがメインの時代に、原価差額をちまちまと分析する意義は、ほとんどなくなったというべきでしょう。 それにもかかわらず、原価計算の専門書の中には、いまだに十種類以上もの原価差異分析を解説しているものがあります。 まさに、企業実務を知らない者たちが、ちまちまと説く「机上の空論」。 こうしたものを「ちまちま原価計算」といい、これを排除しよう、ということを説いたのが、次の受賞論文の「Ⅴ.原価計算の革新を目指して」です。
ところで、第三者委員会のツッコミが足りないな、と感じたのは、58ページにある次の記述。

社内にて将来販売できるであろう想定を行なった上で作り溜め数を決定し、相当量の作り溜めを実施した。しかし、実際の販売数は、当該想定を大きく下回ったことから、当該在庫は滞留した。

「作り溜め」そのものを糾弾する記述が、調査報告書に見当たりません。 「つくりだめ」が、「粉飾決算の古典的名作」であることを、第三者委員会の方々は、誰もご存じないらしい。 これがどのようにして、利益を膨らませるのか、そのカラクリは、次の拙著の「第1章 第1節 販売努力もせずに利益を増やす方法」で説明しています。 2014年10月に、第2版としています。
決定版 ほんとうにわかる管理会計&戦略会計
高田 直芳 2014年10月 第2版
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拙著の「第1章 第1節」で説明しているくらいですから、「作り留め」を利用した粉飾決算は、古典的名作なのです。 関連ブログ『シャープの主力銀行は何を見ていたのか』で実証もしました。 そうしたカラクリを、第三者委員会の方々は誰も知らなかったということか。 古今東西、「作り溜め」を行なって逃げ切った人たちの、高笑いが聞こえてきそうです。
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