公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










はてなブログは、ウェブリブログのバックアップ用であり、更新には数日の遅れがあります。

はてなブログ内のリンクはすべて、ウェブリブログへ接続します。

公認会計士高田直芳:管理会計や原価計算を知らない人たちは今日も騙され続ける

今回は、東芝の第三者委員会調査報告書「第3章 映像事業における経費計上等に係る会計処理」を学びましょう。
調査報告書<要約版>に、次の記述がありました。
【資料1】  在庫評価に関するもの(主としてFOB-UP)

経理システム上、連結グループ会社間取引において東芝の粗利がマイナスの場合においては、連結ベースで未実現損益の消去が行われないことを利用して、東芝の粗利がマイナスとなる範囲内で、東芝から海外現地法人への販売する製品価格(FOB価格)を期末に増額(UP)させる方法。

調査報告書<要約版>41ページ
上記【資料1】のポイントは、次の2つ。
【資料2】

  1. 粗利がマイナスとなる場合、未実現損失を消去する必要がない会計制度の仕組みを悪用する。

  2. 粗利がプラスにならないように細工して、子会社へ在庫を押しつける。

この仕組みを用いて粉飾決算を行なうには、かなり高度なテクニックを要します。 よく練られているなぁ、と感心してしまいました。
例えば、親会社が100円で製造した製品を、子会社へ120円で販売します。 子会社がこの製品を、外部へ販売すれば、何も問題は起きません。 ところが、期末を迎えて、この製品が売れ残ってしまった場合、親会社が付加した20円を「未実現利益」といい、連結決算では消去する必要があります。 企業会計基準第22号『連結財務諸表に関する会計基準』36項の本文で、そう定められています。 したがって、連結決算における棚卸資産は、120円から100円へ修正されます。
次に、親会社が100円で製造した製品を、子会社へ80円で販売したとします。 期末を迎えて、この製品が売れ残ってしまった場合、親会社に20円の「未実現損失」が発生します。 ところが、未実現損失は、その多くが「回収不能」と判断されるので、連結決算で消去する必要がありません。 企業会計基準第22号『連結財務諸表に関する会計基準』36項の但書で、そう定められています。 損失は早めに認識しようとする趣旨であり、未実現利益とは「非対称の扱い」です。 したがって、連結決算における棚卸資産は、100円へ修正されることなく、80円のままとなります。
以上の説明では不明な点があったので、調査報告書<全文版>を参照したところ、次の記述がありました。

しかし、東芝は、連結決算手続上、東芝単体における事業部全体の利益率を一律の消去率として簡便的に消去されていた制度(当該制度によると、経理システム上、連結グループ会社間取引において東芝の粗利がマイナスの場合においては、連結ベースで未実現損益の消去が行われないこととなる。)を利用して、連結ベースの損益調整(見かけ上の利益の嵩上げ)のため、当該未実現利益の全部もしくは一部を消去していなかった。

調査報告書<全文版>183ページ
第三者委員会のツッコミは、甘くないか。 「第三者委員会の追求を、かわすことができた」と、ほくそ笑んでいる人がいるかも。
先ほどの例では、親会社が100円で製造した製品を、子会社へ80円で販売しました。 未実現損失が20円では、粉飾決算としての「妙味」が、ほとんどありません。 そこで、親会社が100円で製造した製品を、子会社へ99円で販売したとします。 未実現損失は、1円です。 上記【資料2】2.にある「粗利がプラスにならない」ギリギリの価格です。 粗利がプラスに転じては、在庫の評価減の問題が生じるので、1円でも未実現損失を計上しておくほうが、第三者の追求をかわすには無難です。 それが上記【資料2】2.の意図でしょう。
さて、これ以降は、次の関連ブログで述べた「粉飾決算のカラクリ」と同じです。
【関連ブログ】
また、次の拙著「第1章 第1節 販売努力もせずに利益を増やす方法」で、そのカラクリを詳説しています。
決定版 ほんとうにわかる管理会計&戦略会計
高田 直芳 2014年10月 第2版
amazon.co.jpで買う
上掲の書籍は2014年10月に改訂し、第2版としています。
日本の原価計算制度の基本は、全部原価計算制度にあります。 これを悪用することによって、粉飾決算を、いとも簡単に実行できてしまいます。 未実現利益や未実現損失を、消去するかどうかなど、まったく関係ありません。 未実現利益や未実現損失を生む会計処理そのものを批判する人がいますが、それは連結会計制度や全部原価計算制度を学んでいないだけの話。 販売活動など一切行なわず、1円の未実現損失を利用して在庫を積み増す、という生産活動そのものが、粉飾決算として利用されることを理解しましょう。 そういうカラクリというか、管理会計原価計算の仕組みを知らない人があまりに多いので、今日も明日も、どこかの企業で粉飾決算が行なわれるのです。 そして、管理会計原価計算を知らない人たちは、これからも騙され続け、とんちんかんな批判を繰り返します。
なお、全部原価計算制度の欠点を改めるために考案されたのが、直接原価計算制度。 しかし、直接原価計算制度にも重大な欠陥があることを、次の受賞論文29ページの、下から4行目で説明しています。
批判するなら対案を出せ、というのがビジネスマナーなので、対案については上記の受賞論文28ページまでで説明しています。
【関連ブログ】