公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:原価差額を理解せずにコスト削減に取り組む企業の愚かさ


原価差額を理解せずに
コスト削減に取り組む企業の愚かさ

『高田直芳の実践会計講座 原価計算』補足説明

関連ブログ『在庫の「作り溜め」で逃げ切った人たちの高笑いが聞こえる』では、「原価差額は、雑多な集合体であり、こんなものに、「より精緻な方法」を求める意義は乏しい」と述べました。
今回は、現在の原価計算制度から求められる原価差額の中味が、如何に出鱈目であるかを論証してみましょう。 原価差額の中味を理解せずに、コスト削減活動(原価低減活動)に取り組む企業の愚かさを嘲笑う話です。 今回のブログを最後まで読み通せる人の「歩留り」は、3%程度でしょうか。
残り97%の人は、「経営戦略の選択に失敗した経営者の責任を、現場の従業員が不当に背負わされる」という形のコスト削減に取り組んでください。 それが、原価計算を理解しようとしない97%の人たちが支払う代償です。
そう──。 上場企業3千社および非上場企業100万社が取り組んでいる原価計算制度は、無能な企業経営者の失敗責任が隠蔽される仕組みになっていることを、本ブログの終わり10行ほどで証明してご覧に入れます。
まず、企業会計審議会『原価計算基準』の「第四章 原価差異の算定および分析」では、原価差異について、次の【資料1】を例示しています。
【資料1】
  1. 実際原価計算制度における原価差異
    1. 材料副費配賦差異
    2. 材料消費価格差異(材料受入価格差異を除く)
    3. 賃率差異
    4. 製造間接費配賦差異
    5. 加工費配賦差異
    6. 補助部門費配賦差異
  2. 標準原価計算制度における原価差異
    1. 直接材料費価格差異(消費価格差異)
    2. 直接材料費数量差異(材料費歩留差異)
    3. 賃率差異
    4. 作業時間差異(労務費歩留差異)
    5. 製造間接費差異(予算差異、能率差異、操業度差異)
    6. 予算差異(変動費予算差異、固定費予算差異)
    7. 能率差異(変動費能率差異、固定費能率差異)
    8. 操業度差異
上記【資料1】を見た瞬間に、50%以上の方々は、脱落することでしょう。
その50%以上の方々は、「経営戦略の選択に失敗した経営者の責任を、現場の従業員が不当に背負わされる」という形のコスト削減に、今日も取り組んでください。
さて、上記【資料1】に列挙した中で、とんでもない曲者は、最終行にある操業度差異(B.の8..)です。 コイツの正体は一体、何者か。
操業度差異を説明するものとして、飲料メーカー(アサヒGHD)と殺虫剤メーカー(アース製薬)を取り上げます。 こうしたメーカーでは、夏場は24時間フル操業の状態でしょう。 哀しいかな、冬場も24時間フル操業とはいきません。 次の【資料2】上段(図表36)はアサヒGHDであり、冬場の稼働率は70%台まで低下します。 【資料2】下段(図表37)はアース製薬であり、冬場の稼働率は30%台まで低下します。
【資料2】
画像
上記【資料2】の上段と下段の図表は、次の受賞論文28ページに掲載してあるものです。
【資料3】
上記【資料2】の上段と下段の図表において、太い破線で描いた水平線「予算操業度100%ライン」は、企業会計審議会『原価計算基準』にある予定操業度または正常操業度に相当します。 したがって、「予算操業度100%ライン」を下回る部分は、操業度差異が借方差異(不利差異)となり、上回る部分は貸方差異(有利差異)となります。 原価計算に関する書籍ではそのすべてで、操業度差異について、借方差異と貸方差異が説明されます。 各種の試験や、簿記の検定試験などでも、なんとかの一つ覚えみたいに、そういう出題や解説が行なわれます。 ところが、企業実務で、なんとかの一つ覚えみたいに、『原価計算基準』の教え通りに操業度差異を計算すると、とんでもない分析結果が飛び出します。 企業実務を知らない者には、決して理解できない現象です。
まず、製造間接費配賦差異を、予算差異と操業度差異とに分けます。 実際操業度が予定操業度を下回るとき、製造間接費配賦差異の合計額が▲2,000円であったと仮定します。 その内訳は、予算差異▲1,000円と、操業度差異▲1,000円とします。 実際操業度が予定操業度を少し超えた場合でも、製造間接費配賦差異の合計額が▲2,000円であったとします。 実際操業度が少しくらい変化したからといって、製造間接費配賦差異の合計額が急増または急減するはずがないからです。 ところが、『原価計算基準』の教え通りに、原価差異を計算すると、不思議な現象が起きます。 製造間接費配賦差異の内訳が、予算差異▲1,000円と操業度差異▲1,000円にならないのです。 理由は、稼働率が「予算操業度100%ライン」を上回る場合、操業度差異が貸方差異(有利差異)に転じるからです。
そこで、『原価計算基準』の教え通りに、操業度差異を+1,000円の貸方差異(有利差異)とします。 そうなると、製造間接費配賦差異▲2,000円の内訳は、予算差異▲3,000円と操業度差異+1,000円とする必要があります。 予定操業度より少し左側では、予算差異は▲1,000円でした。 ところが、予定操業度より少し右側では、予算差異は▲3,000円へと3倍増するのです。 これは驚異的な変動です。 製造間接費配賦差異の合計額は、実際操業度が多少増減したからといって、そんなに大きく変動するものではありません。 ところが、実際操業度が予定操業度の近辺にあると、予算差異は大きく変動してしまうのです。 【資料2】では、夏場の活況期になると、稼働率は「予算操業度100%」ラインを超えます。 そのたびに予算差異が、何十倍にも何百倍にも急増するのです。
上記の問題については、いままで誰も騒いできませんでした。 なぜか。 学者は、実務がどうなっているかを知らないから。 実務担当者やシステムエンジニアたちは、学者の権威にひれ伏し、理論を深く考察しないから。 それを乗り越えようとするのが、上記『新日本法規財団 奨励賞 受賞論文』にある「Ⅴ.原価計算の革新を目指して」で述べた「タカダ式変動予算」です。
タカダ式変動予算では、企業のコスト構造を複利曲線で描きます。 これは筆者の実務経験によります。 すなわち──、
【資料4】
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。
    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。
    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。
    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。
    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。
    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。
    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。
    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
【資料4】で明らかなように、製造業や流通業を問わず、企業のコスト構造は、無限回数の複利計算構造を内蔵していることがわかります。
【資料4】にある「無限回数の複利計算構造」という発想に基づいて組み立てられるのが、次の【資料5】に示す「タカダ式変動予算」です。
【資料5】タカダ式変動予算
画像
上記【資料5】は、【資料3】の『新日本法規財団 奨励賞 受賞論文』26ページからの転載です。
【資料2】の上段と下段の図表において、「予算操業度100%ライン」を下回る部分は、【資料5】のタカダ式変動予算では「遊休差異」となります。 また、「予算操業度100%ライン」を上回る部分は、【資料5】のタカダ式変動予算では、右上の「過重差異」となります。 「遊休差異」も「過重差異」も、借方差異(不利差異)となるのが、【資料5】のタカダ式変動予算の特徴です。 したがって、予算差異が、▲1,000円から▲3,000円へと急増するという、愚かな現象に悩まされることがなくなります。
話を戻して、タカダ式変動予算を採用せず、企業会計審議会『原価計算基準』の教えの通りに、原価差異を計算すると、その原価差異はどういう意味を持つか、知っていますか。 活況期になると、予算差異は▲3,000円へと、3倍増するのでした。 これって本来、操業度差異であるべきものの一部(2,000円相当)が、予算差異へ無理矢理、振り替えられたことを意味します。 予算差異に限られません。 上記【資料1】に掲げた操業度差異以外の原価差異はすべて、操業度差異の一部を、不当に負担させられているのです。 そのような原価差額を分析する意義が、どこにあるというのでしょうか。 本ブログの冒頭でも述べたように、原価差額を「より精緻」に配賦する意義が、どこにあるというのでしょうか。
関連ブログ『CVP分析の固定費は、なぜ、マイナスになるのか』では、CVP分析(損益分岐点分析)によって導出される固定費が、マイナスになる現象を、会計学者や会計専門家の誰一人として説明できないことを指摘しました。 それを乗り越えたのが、「管理会計論としてのタカダ式操業度分析」です。 今回は、操業度差異以外の原価差異が、不当なコストを負担させられ、有象無象と化していることを糾弾します。 この問題も、会計学者や会計専門家の誰一人として、指摘してこなかった問題です。 それを乗り越えるのが、「原価計算としてのタカダ式変動予算」です。 次の書籍の343ページで詳述しています。 そもそも、操業度差異って、どういう性格を持ったものか知っていますか。 これは、企業経営者が、「わが社は、このビジネスモデルでいく」と意思決定したことに伴う過不足額を表わします。 「操業度差異」と「操業度差異以外の原価差異」とは、その性格がまったく異なるのです。 操業度差異は、現場の実務担当者が責任を負うコストではなく、企業経営者が責任を負うべきコストなのです。 それが、操業度差異の本質です。 ところが、現行の原価計算制度では、企業経営者が責任を負うべき操業度差異の大半が、数量差異・時間差異・予算差異・能率差異などに紛れ込んでいるのです。 すなわち、無能な企業経営者によって意思決定されたコスト(操業度差異)が、現場の責任として転嫁されているということ。 みなさんが将来、リストラされることがあるとしたら、諸悪の根源は、企業会計審議会『原価計算基準』にあることを思い出してください。
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