公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:予定原価や標準原価に隠された「重大な瑕疵」に気づかぬ上場3千社


予定原価や標準原価に隠された
「重大な瑕疵」に気づかぬ上場3千社

『高田直芳の実践会計講座 原価計算』
補足説明


上場企業3千社に限らず、中堅中小企業100万社のほぼすべてで、予定原価(以下、標準原価を含みます)に基づいたコスト管理が行なわれているはずです。
予定原価とは、製造業であれば「製品1個あたりの予定価格(以下、標準価格を含みます)」であり、流通業であれば「商品1個あたりの予定価格」に基づいて計算するものです。
こうした予定価格を採用することにより、月次決算や年度決算の作業の迅速化を図ることができます。
ところが、です。
予定価格を使って計算した予定原価が、「本当に正しいのかどうか」、自信が持てない企業がほとんどであることを、本ブログで暴露しましょう。
外部の者が、上場企業に対して、「貴社の予定原価って、きちんと計算できていないのですか?」と質問しても無駄です。 上場企業のメンツにかけて、「計算できていません」と答えるわけがないからです。 しかし、予定原価を採用している企業のコスト管理は、そのほとんどで崩壊しています。 なぜなら、CVP分析(損益分岐点分析&限界利益分析)に基づいて算出される固定費が「マイナスに転落する現象」と同じ問題(理論上の瑕疵)が、予定原価にも組み込まれているからです。
【関連ブログ】
単利計算構造に基づくCVP分析が理論面でも実務面でも崩壊しているのですから、同じ単利計算構造に基づく予定原価や標準原価も当然、崩壊します。 それを以下で証明しましょう。
次の【資料1】は、「製品1個あたりの予定価格」を簡略化して描いたものです。
【資料1】
画像
【資料1】において、∠FOLが、製品や商品へ振り替えられる「1個あたりの予定価格」を表わします。 専門用語では、∠FOLを予定配賦率または標準配賦率といいます。 ちなみに、この∠FOLの予定価格を、工程別に巧妙に操作したのが、東芝で行なわれた粉飾決算でした。 次の【関連ブログ】で紹介しています。
【関連ブログ】
上記【資料1】の横軸では、閑散期の実際操業度(点G)と、繁忙期の実際操業度(点L)を示しており、企業活動はこの区間で揺れ動きます。 これを季節変動といいます。 季節変動は、流通業界特有の現象ではありません。 製造業でも、季節変動の波が襲いかかります。 例えば、飲料市場や殺虫剤市場では、夏に繁忙期が襲いかかり、冬に閑散期が襲いかかることを、次の【関連ブログ】で、アサヒ・グループ・ホールディングスとアース製薬の決算データで解析しました。
【関連ブログ】
これから迎えるクリスマス商戦や年末商戦は、多くの企業にとって繁忙期になります。 したがって、上記【資料1】にある予定価格∠FOLで予定原価を計算していくと、閑散期(点G)には青色で示した△EBCに相当する原価差異が発生します。 これを専門用語で「不利差異」といいます。 また、上記【資料1】にある予定価格∠FOLで予定原価を計算していくと、繁忙期(点L)には橙(だいだい)色で示した△CFDに相当する原価差異が発生します。 これを専門用語で「有利差異」といいます。
閑散期(点G)には不利差異が発生し、繁忙期(点L)には有利差異が発生する、これらの会計処理について、企業会計基準第12号『四半期財務諸表に関する会計基準 』はその第12項で、また、企業会計基準適用指針第14号『四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針』はその第89項で、それぞれ次の定めをしています。
【資料2】
『四半期財務諸表に関する会計基準
第12項(原価差異の繰延処理)

標準原価計算等を採用している場合において、原価差異が操業度等の季節的な変動に起因して発生したものであり、かつ、原価計算期間末までにほぼ解消が見込まれるときには、継続適用を条件として、当該原価差異を流動資産又は流動負債として繰り延べることができる。

『四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針』
第89項(原価差異の配賦方法における簡便的な会計処理)

予定価格等又は標準原価を用いていることにより四半期会計期間末に発生した原価差異については、①原価計算期間末までに当該原価差異がほぼ解消すると見込まれる場合と、②原価計算期間末までに当該原価差異が解消すると見込まれない場合が考えられる。

会計基準では、このうち①に該当し、かつ、当該原価差異が操業度等の季節的な変動に起因して発生したものである場合には、継続適用を条件として、当該原価差異を繰り延べることができることとした(会計基準第12項)。([設例1]は省略)

つまり、閑散期に発生した不利差異(△EBC)と、繁忙期に発生した有利差異(△CFD)は、年間を通すと相殺されてゼロになる(解消される)、というのが、現在の会計制度における取り扱いなのです。 会計学者や公認会計士などの専門家が100万人いるならば、そのうちの99万9999人は、【資料2】の会計処理は「絶対に正しい」と主張します。
それに対し、100万人のうちのたった1人(本ブログの執筆者:高田直芳)だけは、【資料2】の会計処理には「重大な瑕疵がある」と主張します。 なぜか。 その理由を理解するために、【資料1】の実際発生額(線分ABCD)に注目します。 これは1次関数で描かれています。 預金の利息計算でいえば単利計算であり、【資料1】の実際発生額(線分ABCD)は、単利計算構造で描かれていることがわかります。
しかし、企業のコスト構造を、よくよく観察すると──、
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。

    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。

    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。

    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。

    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。

    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。

    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。

    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 株式市場や仮想通貨市場を観察してみてください。

    • 人気が沸騰すればするほど、限りなくゼロに近い時間軸の中で、膨大な数の取引が行なわれます。

    • 買いが買いを呼び、売りが売りを呼ぶその経済現象は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
  • マクロ経済の産業連関表を観察してみてください。

    • ある産業で生産された中間財は次の産業へ投入され、そこで生産された中間財は次の産業へと投入されていきます。

    • その流れは、マクロ経済レベルで、無限連鎖の複利計算を行なっていくことと同じです。
以上のように、企業のコスト構造やミクロ・マクロの経済構造の本質は、複利計算構造にあることがわかります。 したがって、【資料1】の実際発生額(線分ABCD)は、単利計算構造の「直線形」ではなく、複利計算構造の「曲線形」で描かれるべきなのです。
企業のコスト構造は複利計算構造で描かれるべきである、という主張が理解できるかどうかはともかく、常識的に考えて欲しいことがあります。 閑散期の原価差異が「不利」であり、繁忙期の原価差異が「有利」である、と会計基準が定めていることについて、あなたがたは、「何か変だぞ」と疑問を抱かないのか、ということです。
99万9999人が、閑散期の原価差異を「不利」と評価するのは、操業度が低迷するのは「損なことだ」と考えているからなのでしょう。 そうなると、繁忙期の原価差異を「有利」と評価するのは、操業度がオーバーヒート状態になるのは「お得だ」と、99万9999人は考えていることになります。 損と得とが年度末には相殺(解消)されて、「めでたし、めでたし」となるのが、【資料2】の会計基準の趣旨だというわけです。
しかし、閑散期に操業度が低迷するのと同じくらい、繁忙期がオーバーヒート状態になるのも、ビジネスモデルとしては「大いに問題あり」なのではないですか。 いえ、「繁忙期には、外注を利用したり、期間工を採用したりすればいい」という反論があるでしょう。 しかし、外注先や期間工は、そんなに都合よく扱えるものなのでしょうか。 外注先や期間工が見つからなかった場合、繁忙期の販売機会(ビジネスチャンス)を、みすみす逃すことになります。 繁忙期が訪れるたびに、外注先や期間工を無理にでも使えば、急激なコストアップにより、採算が逆に悪化する恐れがあります。 これは、ビジネスロスです。 そのような企業活動を季節ごとに繰り返すことが、「お得だ」と評価できるのでしょうか。
企業経営者は本能的に、閑散期だけでなく、繁忙期も「損なことだ」と理解しているからこそ、季節変動の平準化に努めようとしているのではないですか。 閑散期があるから、その反射的な効果として、繁忙期が必然的に現われるのです。 そうであるならば、閑散期だけを「不利」として扱うのは、おかしい。 すなわち、繁忙期を「有利」とするのは誤りであり、繁忙期も閑散期もともに「不利」と扱うべきなのです。 繁忙期を「お得だ」、閑散期を「損なことだ」と考えている人たちは、おそらく、マクロ経済学景気循環論(好況と不況の繰り返し)と混同しているのでしょう。 注意したいのは、好況と不況は、春夏秋冬の季節に応じて繰り返されるものではない点です。
以上の考えに基づいた理論が、次の受賞論文で論じている「タカダ式操業度分析」です。
上記の受賞論文26ページでは、タカダ式操業度分析を原価計算論に応用した「タカダ式変動予算」を掲載しています。 それが次の【資料3】です。
【資料3】
画像
上記【資料3】の特徴は、企業のコスト構造を、複利曲線(曲線ABC)で描いている点にあります。 したがって、閑散期では、遊休差異という「不利差異」が発生します。 また、繁忙期では、過重差異という「不利差異」が発生します。 閑散期であろうと、繁忙期であろうと、どちらも「損なことだ」として扱うのが、【資料3】のタカダ式変動予算の特徴です。 上記の受賞論文に基づいて開発したのが、次のシステムです。
上記の理論を精緻化して論じたのが、次の拙著です。 改めて念押しすると、【資料1】にある実際発生額(線分ABCD)は、単利計算構造の「直線形」です。 当然、橙色で表わされる「有利差異」の△CFDは、単利計算構造から導かれたものになります。 企業のコスト構造は複利計算構造を内蔵しているにもかかわらず、単利計算構造で説明しようとする【資料1】や【資料2】に「重大な瑕疵」があることは明らかです。 理論面に「重大な瑕疵」があるのですから、予定原価や標準原価を計算する実務面もまた、確実に崩壊しているのは明らかです。 本ブログの冒頭で述べた「崩壊」の理由は、以上の通りです。 上場企業が3千社もあって、何をやっているんだか。
実際に予定価格や標準価格を採用している場合で、有利差異が1円でも算出されたとき、それは貴社のコスト管理が崩壊している証拠ですからご注意を。 幸いにも、期中で一度も有利差異が算出されなかったときは、喜んでいいのでしょうか。 いいえ、違います。 単利計算構造に基づく予定原価で、有利差異が算出されないのは、実際の操業度が、【資料1】にある点Gよりも、もっと左側にあることを意味します。 つまり、不稼動の設備資産や、無能な人材が社内に溢(あふ)れかえっている証拠です。
貴社の予定原価や標準原価は、「きちんと計算されているぞ」と胸を張って主張できますか。 複利計算構造を内蔵したコスト構造を、「今日こそは、単利計算の式で解き明かしてみせるぞ」と、意気込んでいるのでしょうか。 複利運用された預金利息を、単利計算の式で検算できるかどうか、貴社の取引銀行に質問してみるといいでしょう。 子供でも、単利と複利の違いは理解できますよ。 オトナがそれを理解できないとは、何とも情けない。
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