公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:資本回収点資金回収点とは何か

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先日、連結売上高が1兆円を優に超える企業の役員会に出席するために、都内某所を訪れました。 私の理論(タカダ式操業度分析など)を、非常に高く評価してくださっている企業でもあります。
到着時刻が早かったので、オフィスビル内にある紀伊國屋書店で時間を潰しました。
書店で手にした書籍で、次の【資料1】の資本回収点図表が掲載されていて、管理会計や経営分析などの分野ではいまだに、このような「箸にも棒にもかからぬ理論」を扱っているのか」と、苦笑してしまいました。
【資料1】資本回収点図表・資金回収点図表・資本図表
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上記【資料1】の右端に、変動的資本(線分CD)と固定的資本(線分DH)を表示しています。
したがって、線分CHは、貸借対照表の総資本または使用総資本を表わします。
原点Oから伸びる線分OAは売上高線であり、この線分OAと線分BCとの交点を、資本回収点Pとしています。 資金回収点と呼ぶこともあります。
点Pから垂線を下ろしたところにある点Fを、資本回収点売上高または資金回収点売上高といいます。 名称は、どうでもいい話。
資本回収点(資金回収点)では、総資本回転率が「1」になる。 これが重要です。
上記【資料1】は、目新しいものではありません。 私が、公認会計士試験の受験勉強をしていたときに、【資料1】の図表は何度も見かけましたし、その練習問題を解いたこともありました。
管理会計や経営分析などを、少しでも学んだことのある人であれば、【資料1】の元ネタが、次の【資料2】にあることは、すぐに気がつきます。
【資料2】損益分岐点図表・CVP図表
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変動費を変動的資本に、固定費を固定的資本に、損益分岐点を資本回収点に、それぞれ置き換えれば、【資料2】から【資料1】へと、コピー&ペーストすることができます。 損益分岐点分析(CVP分析)は別名、限界利益分析や線形回帰分析とも呼ばれます。
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今回、問題とするのは【資料2】ではなく、【資料1】です。 上記【資料1】は、実務で役立つものなのかどうかを検証してみましょう。 そのために、まず、元ネタとなっている【資料2】の仕組みを説明します。 上記【資料2】において、売上高が点Eにあれば赤字になるので、「これは、マズいぞ」という価値判断が働きます。 売上高が点Gにあれば黒字になるので、「これは、いいことだ」という価値判断が働きます。 したがって、【資料2】の中空に浮かぶ損益分岐点Pは、業績が良いのか、悪いのか、という価値判断の分岐点になります。
では、【資料1】において、売上高が点Eにあるとき、どのような価値判断が働くのか。 これは、売上高(線分OA)が、総資本(線分BC)を下回る状況にあります。 経営指標の一つである、総資本回転率が「1」よりも小さいことを意味します。 総資本回転率が「1」よりも小さいのは、良いことなのでしょうか、悪いことなのでしょうか。 答えは、「どちらとも言えない」。 例えば、トヨタ自動車総資本回転率は、2014年3月期で「0.62」、2015年3月期で「0.57」しかありません。 上記【資料1】の点Eよりも、もっと左に位置します。 その位置が良いのか悪いのかは、「どちらとも言えない」ということです。
例えば、流通業界のセブン&アイ・ホールディングス総資本回転率は、2014年3月期で「1.17」、2015年3月期で「1.15」になります。 総資本回転率が「1」よりも大きいということは、セブン&アイHDの売上高は、【資料1】の点G あたりにあることになります。 これは、売上高線(線分OA)が、総資本(線分BC)を上回る状況です。 だからといって、【資料1】の点Gに位置するセブン&アイHDが、点Eに位置するトヨタ自動車よりも「優れている」という話は聞いたことがありません。
資本回収点を得意気に語る人によれば、「資本回収点が低いほど望ましい」と主張します。 資本回収点を低くすることは、容易です。 過剰設備や過剰負債などなんのその、企業規模をがんがん増大させればいいのですから。 そうすれば、資本回収点は、相対的に低くなります。 はたして、それは、首肯されるべき経営戦略なのか。 そんなわけがない。 したがって、【資料1】の中空に浮かぶ資本回収点(資金回収点)は、何ら価値判断を伴わない概念であることがわかります。
また、【資料1】の変動的資本が、「総資本の流動資産」なのか、「使用総資本の流動負債」なのか、それも不明です。 上記【資料1】を説明する際、使用総資本のほうを採用する人が多いようです。 では、使用総資本と売上高との間には、どのような対応関係があるのか、それについて納得できる説明を、私(高田直芳)は読んだことがありません。 そもそも、【資料2】の損益分岐点図表(CVP図表)が成り立つのは、売上高と費用との間に、「費用収益対応の原則」が成立しているからです。 上記【資料1】の資本回収点図表(資本図表)が成り立つためには、「資本収益対応の原則」といったものが存在しなければなりません。 ですが、そんな妙ちくりんな会計原則、聞いたことがありません。
「使用総資本」と「売上高」の関係よりもはるかに重要なのは、使用総資本の構成要素である「他人資本」と「自己資本」との関係性──最適資本構成の問題──を明らかにすることではないのか。 上記【資料1】を用いて説明するならば、線分CHを他人資本自己資本とに分けた場合、それぞれの最適な割合を求めることではないのか。 これを「最適資本構成の問題」といいます。 この「最適資本構成の問題」については、次の関連ブログで論じています。
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結局、上記【資料1】の資本回収点図表(資本図表)は、企業実務を知らない者たちが捻り出した「机上の空論」なのでした。 資本回収点や資金回収点を得意気に振りかざす者たちよ。 そのようなことをしていたら、実務界で笑われるぞ。
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