公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:三菱重工業の商船事業はなぜ失敗したのか

現代の管理会計や経営分析には「重大な瑕疵」があり、それに基づいて経営戦略を展開すると見事に失敗することを、拙著や本ブログで再三、警告してきました。
その1つの例を、三菱重工業の商船事業に垣間見ることができます。
現代の管理会計や経営分析が、企業の経営戦略を如何に誤らせるかを、同社の事例で検証してみます。
2015年10月1日付で、三菱重工業の商船部門が分社化され、ガス運搬船の建造に特化した三菱重工船舶海洋が発足しました。
その新会社の社長は、過去に選択した戦略の失敗を認め(日経産業新聞、2015年10月6日)、次のように述べています。
【資料1】 固締まりで人数を絞り、協力会社を使った結果、設計が定まらず今の非常に厳しい事態になった。
日経産業新聞、2015年10月6日
上記【資料1】にある「固締まり」とは、三菱重工業のローカル用語であり、「固定費削減」のこと。 協力会社とは外注先のことであり、「協力会社を使う」とは、外注費=変動費へシフトすることです。 したがって、【資料1】は、「固定費を減らして、変動費へ切り替えたが、その経営戦略が失敗した」という意味になります。
なぜ失敗したのか。 これは、いくつかの面から論証することができます。 まず、現代の管理会計では、限界利益という概念を用います。 貢献利益や変動利益とも呼ばれ、【資料2】の式で表わされます。
【資料2】
    限界利益または貢献利益)=(損益計算書の利益)+(固定費)

ところで、次の拙著237頁では、付加価値という概念について、いく通りかの定義を紹介しています。
決定版 ほんとうにわかる管理会計&戦略会計
高田 直芳 2014年10月 第2版
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そのうちの1つについて、次のように定義しています。
【資料3】
    付加価値
      =(損益計算書の利益)+(人件費)+(賃借料)+(金融費用)+(減価償却費)+(租税公課
上記【資料3】にある人件費から租税公課までは、売上高の増減に比例しないコストですから、これらは固定費であることがわかります。 以上より、【資料2】の限界利益の正体は、【資料3】の付加価値であり、したがって、次の式が成り立ちます。
【資料4】
    付加価値=(損益計算書の利益)+(固定費)

上場企業の役員や経営幹部で、【資料4】の式を理解していない人が、意外と数多く存在します。 理解していないからこそ、安易な固締まり(固定費削減)に取り組んでしまうのです。 その結果、【資料4】の右辺第2項の固定費を削減することにより(外注費=変動費を増やすことにより)、付加価値が減ってしまうのです。 上記【資料1】で、「今の非常に厳しい事態になった」のは当たり前。 何をいまさら、という話なのです。
その固締まり(固定費削減)は、現代の管理会計が説くCVP分析(損益分岐点分析)に基づいて行なわれます。 管理会計や経営分析を学んだ者が100万人いるとするならば、そのうちの99万9999人は「CVP分析は絶対的に正しい」と主張する理論です。 残念な話ではありますが、99万9999人が「絶対的に正しい」と信じているCVP分析については、「理論上の瑕疵」があり、企業実務でまったく役に立たないことを、次の受賞論文で証明しました。
【資料5】

CVP分析のどこに、「理論上の瑕疵」があるのか。 それは、1次関数に立脚している点にあります。 1次関数とは、単利計算構造のこと。 それは、企業活動を理解するにあたって、正しいのかどうか。 企業実務をよくよく観察すると、次の【資料6】の事実を観察することができます。
【資料6】
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。
    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。
    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。
    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。
    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。
    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。
    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。
    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
以上のように、製造業や流通業を問わず、企業のコスト構造は、無限回数の複利計算構造を内蔵していることがわかります。 それを単利計算構造のCVP分析で解き明かそうとするのが、そもそもの誤り。 これが「理論上の瑕疵」です。
しかも、CVP分析の「救いようがないところ」は、この理論が考案されたのが1903年(明治36年)であり、理論として確立されたのが1920年(大正9年)だということです。 1903年(明治36年)というと、ライト兄弟が動力飛行に成功した年。 その後の飛行技術の進歩は、説明するまでもないでしょう。 一方、管理会計で絶対的通説として君臨するCVP分析(損益分岐点分析)は、1903年(明治36年)から現在(2015年)に至るまでの112年間、まったくの進歩なし。 書店で、管理会計や経営分析の書籍を見ると、そのすべてにCVP分析(損益分岐点分析)が掲載され、これに基づいて固定費・損益分岐点限界利益・貢献利益などが説明されているので、笑っちゃうのであります。 他人の物真似ばかりする専門家たちを、「センセ、センセ」と崇める側にも問題があるわけですが。
112年間も君臨し続ける絶対的通説だけあって、誰もその「理論上の瑕疵」に気づかず、上場企業のすべてでCVP分析(損益分岐点分析)が用いられています。 なぜなら、この分析道具を用いなければ、決算短信の表紙にある「業績予想」ができないからです。 三菱重工業だけでなく、トヨタ自動車パナソニックセブン&アイHDなどの上場企業でも、そのすべてで、単利計算構造のCVP分析(損益分岐点分析)が用いられていることを明言します。 なぜなら、企業のコスト構造を複利計算構造で解き明かした【資料5】の論文は、日本だけでなく、欧米の学者や専門家の誰一人として語ったことがない「高田直芳オリジナル」だからです。 上場企業3千社で数百万人が束になって取り組もうとも、彼ら(彼女ら)が用いているのは、単利計算構造のCVP分析(損益分岐点分析)に基づく管理会計やコスト管理です。
当然のことながら、日本だけでなく海外の企業で利用されている会計システムでも、CVP分析(損益分岐点分析)が搭載されています。 その基本構造は、勘定科目に基づいて、固定費と変動費とを分類するものです。 ところが、これが、さらなる悲劇を生みます。 上記【資料5】の受賞論文18頁では、マツモトキヨシ有価証券報告書データを用い、勘定科目によって固定費を算出した例を掲載しています。 しかし、勘定科目によって固定費を算出したところで、それを1次関数(単利計算構造)で描く限り、固定費を過小評価する、という「理論上の瑕疵」を治癒することはできません。
例えば、削減すべき固定費の金額について、勘定科目を解析した結果、100億円であったとしましょう。 ところが、上記【資料5】の受賞論文で説明している「複利計算構造のタカダ式操業度分析」によると、実際の固定費は、3倍(300億円)にも、4倍(400億円)にもなります。 単利計算構造のCVP分析に基づいて、固定費を過小評価したまま、固締まり(固定費削減)に取り組むと、どうなるか。 上記【資料4】右辺第2項にある固定費を、100億円だけ削減したつもりが、実際には300億円や400億円も削減させてしまうことになるのです。 これにより、【資料4】の付加価値は、企業経営者が想定する以上に毀損します。 以上の愚策を、管理会計や経営分析は、112年間も続けてきたのでした。
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