公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:東芝の元CFO(最高財務責任者)の発言に憤りを感じる人々への警告


東芝の元CFO(最高財務責任者)の発言に
憤りを感じる人々への警告

[決定版]新・ほんとうにわかる経営分析
補足説明


NHKニュースで、次の報道を見かけました。
【資料1】NHKニュース 2016年2月20日

東芝の不正会計問題で、元CFO=最高財務責任者証券取引等監視委員会の任意の事情聴取に応じ、「不正な会計処理だとは思っていない」などと説明したことが分かりました。

<途中略>事情聴取は、社長への業績報告会議での発言内容や会計処理に対する認識などの確認を中心に行われ、元CFOは「問題とされたパソコン事業の取り引きはビジネスの一つの形態で、不正な会計処理だとは考えていない」などと説明したということです。

元CFOの発言に、憤りを感じている人がいるかもしれません。
この発言の是非はともかく、あなたのその憤りはまったくの見当外れであることを、以下で証明してご覧に入れましょう。
会計学は、財務会計論と管理会計論という、2種類の体系から構成されます(公認会計士法8条2項1号)。 このうち、法令や会計基準などで定められていない理論を扱う会計学管理会計といい、例を示すと次の【資料2】になります。
【資料2】

  • ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)

  • 正味現在価値法、回収期間法、内部利益率法

  • 直接原価計算、原価企画、活動基準原価計算、直接原価計算

  • 機会原価(opportunity cost)や機会損失(opportunity loss)

  • CVP分析(損益分岐点分析・限界利益分析・線形回帰分析)

  • D/Eレシオや加重平均資本コスト率(WACC)などを用いた経営分析

法令や会計基準で定められていないものを、何でもかき集めたものが、管理会計だといえます。 会計を真正面から学んだことがなくても、【資料2】に掲げた用語はそれとなく理解している人が多いことでしょう。
さて、ここからが本題です。 上記【資料2】に掲げた管理会計を少しでも学んだ人が、東芝の元CFO(最高財務責任者)の発言を批判するのは、「見当外れも甚だしい」のです。 なぜか。
上記【資料2】にあるCVP分析に注目します。 これは損益分岐点分析や線型回帰分析とも呼ばれ、現代の管理会計において、絶対的通説として君臨する理論です。 管理会計を学んだ人が100万人いるとするならば、そのうちの99万9999人が「CVP分析は、絶対的に正しい」と信じている理論でもあります。
CVP分析は、次の【資料3】を用いて説明されます。
【資料3】CVP分析(損益分岐点分析・線形回帰分析)
画像
上記【資料3】の中空に「損益分岐点P」があり、ここから垂線を下ろしたところに「損益分岐点売上高Q」があります。 実際の売上高が損益分岐点売上高Qを超えると、売上高線は総費用直線を上回るので、黒字決算=利益となります。 上記【資料3】において、実際売上高を横軸上の線分OXとすると、利益(黒字決算)は右端にある線分DCで表わされます。 線分DCで表わされる「利益」は、営業利益・経常利益・当期純利益、いずれも当てはめることができます。
上記【資料3】において、線分OXで表わされる実際売上高が2倍に増加すると、線分DCで表わされる利益も(2倍になるわけではありませんが)増加します。 線分OXで表わされる実際売上高が3倍に増加すると、線分DCで表わされる利益も(3倍になるわけではありませんが)増加します。 以上から明らかなように、会計の世界で絶対的通説として君臨するCVP分析は、無限の利益拡大を保証する理論なのです。 損益分岐点売上高よりも右側で損失が発生する(赤字決算に転落する)ことを、決して認めない理論だ、と言い換えることができます。
2015年に東芝で問題となったのは、ある決算期に負担させるべき費用を、翌期以降に繰り延べてしまった点にあります。 さて、そこで、東芝の元CFOの発言に憤りを感じる人へ質問です。 ある決算期に負担させるべき費用を、翌期以降に繰り延べる会計処理が、どうして不適切の誹(そし)りを受けなければならないのでしょうか。 もし、ある決算期に負担させるべき費用を、正直にその決算期に負担させて損失になって(赤字決算に転落して)しまった場合、むしろ「無限の利益拡大を保証するCVP分析」に反するではないですか。 「無限の利益拡大を保証するCVP分析」、すなわち、絶対的通説の立場からすれば、損失になりそうな(赤字決算に転落しそうな)案件がある場合、費用の一部を翌期以降に繰り延べるのは、「極めて適切な会計処理」になるのです。 あるいは、CVP分析の正当性を信じる人は、「東芝の赤字案件は、上記【資料3】の損益分岐点Pよりも左下にあるのだ」と主張することでしょう。 そうであるならば、もっとがんがん、インフラ事業でも原発事業でも半導体事業でも、安値受注すればいいのです。 やがては、損益分岐点Pを超えて、無限の利益拡大が実現されることでしょう。 それが、99万9999人が「絶対的に正しい」と信じている、CVP分析の理論的な帰結です。 したがって、CVP分析に基礎を置いた管理会計を、少しでも学んだことのある人が、東芝の元CFOの発言を批判するのは「見当外れも甚だしい」となるわけです。
もちろん、いま述べたことは詭弁です。 どこに誤りがあったのでしょうか。 「誤謬の原因」は、上記【資料3】のCVP分析(損益分岐点分析・限界利益分析・線形回帰分析)そのものにあります。 企業実務をよくよく観察すると、次の【資料4】に示す事実を観察することができます。
【資料4】
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。
    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。
    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。
    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。
    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。
    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。
    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。
    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
以上の観察から明らかなように、企業のコスト構造は、無限回数の複利計算構造を内蔵していることがわかります。 この「無限回数の複利計算」を、数学で突き詰めていくと、「自然対数の底e」という超越数に収束します。 それを数式や図表にまとめて、賞を得たものが、次の【資料5】に示す論文です。
【資料5】
上記【資料5】に収録してある図表を手直ししたものを、次の【資料6】に掲げます。
【資料6】タカダ式操業度分析
画像
上記【資料6】にある総費用曲線ABCDEは、複利関数(正確には「自然対数の底e」を用いた指数関数)で描かれています。
企業業績が、上記【資料6】の赤色の点A1にあるとき、利益は線分A1A2の高さで表わされます。 企業の業績が向上し、上記【資料6】の赤色の点B1にあるとき、利益は線分B1B2の高さで表わされます。 企業の売上高が、赤色の点A1 → 赤色の点B1 → 黒色の点C → 赤色の点C1、へと増加していくとき、利益(線分A1A2や線分B1B2)も増加していきます。 ところが、【資料6】では、利益が無限に拡大することを保証していません。 企業の売上高が、黒色の点Dを超えて、赤色の点D1にあるとき、線分D1D2の高さは縮小に転じます。 赤色の点E1にあるとき、線分E1E2の高さはさらに縮小します。 すなわち、企業のコスト構造は「日々複利の計算構造である」と捉えた場合、利益は無限に拡大するものではない、という理論的な帰結が導かれます。 したがって、ある決算期に負担させるべき費用を、翌期以降に繰り延べる会計処理は「不適切だ」となります。
東芝で問題視された「不適切な会計処理」は、上記【資料6】の右上にある「収益上限点E」を突き抜けてしまったのでしょう。 収益上限点Eよりも右側では、総費用曲線が売上高線を上回りますから、確実に損失が発生します。 収益上限点Eよりも右にある状態を、絶対的通説たるCVP分析に無理矢理合わせようとするならば、「不適切な会計処理」を行なわざるを得なくなる、というわけです。
以上のように、東芝の元CFOの発言を批判できるのは、上記【資料6】の場合に限定されます。 これが、99万9999人に対して、たった一人で対抗する「タカダ式操業度分析」です。 日本だけでなく欧米の書籍や学術論文などで、この百年以上もの間、誰一人として思いつかなかった理論が、上記【資料5】の受賞論文や【資料6】の図表に込められています。
翻(ひるがえ)って、【資料3】にある総費用直線は、1次関数で描かれています。 1次関数とは、単利計算構造のこと。 すなわち、CVP分析の本質は、単利計算構造に基礎を置いていることがわかります。 このように、単利計算構造のCVP分析に立脚した会計を、「古典派会計学」といいます。 上記【資料2】にある、直接原価計算・原価企画・活動基準原価計算も、単利計算構造に基礎を置いた理論であり、古典派会計学に属します。 なお、間違えてならないのは、線形回帰分析そのものに、誤謬があるわけではありません。 何の思慮もなく、管理会計論や原価計算制度などに、線型回帰分析を適用する古典派会計学に誤りがある、と述べているのです。
上記【資料2】にあるディスカウント・キャッシュフロー(DCF)は、「複利計算だぞ」と反論があることでしょう。 いえいえ、ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)は、年に1回か2回の「とびとびの複利」であり、DCFに「無限回数の複利計算」という思考はありません。 見当外れの主張をしないように。 企業のコスト構造は「複利計算構造を内蔵している」にもかかわらず、それを「単利計算構造」や「とびとびの複利計算」で解き明かそうとする古典派会計学が、そもそもの「見当外れ」なのだということを自覚してください。
単利計算構造のCVP分析を信奉している99万9999人に警告しておきます。 損益分岐点を超えると「利益は無限に拡大するのだ」と主張するあなたがたに、東芝の元CFO最高財務責任者)の発言を批判する資格はないのだということを。
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