公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:マイナス金利という異常事態は、企業に債務超過を奨励す


マイナス金利という異常事態は
企業に債務超過を奨励す

[決定版]新・ほんとうにわかる経営分析
補足説明


日銀が導入したマイナス金利政策について、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」というべきか、すっかり慣れっこになってしまいました。
しかし、異常事態であることに変わりはありません。
どれだけ異常な事態かということを、経営分析の立場から、論証してみましょう。
結論を先に述べると、マイナス金利は、企業に対して、「債務超過に転落することを奨励する政策だ」となります。
まさに異常な事態だ。
自己資本に係る自社株消却については、従前ブログ『「内部留保」と「ROE経営」の関係』を参照してもらうことにして、以下では他人資本に係る債務超過の話を進めます。
まず、次の【資料1】に示す経営指標を用います。
【資料1】
  1. 他人資本比率
  2. 自己資本比率
  3. D/Eレシオ
    上記【資料1】の三者には、次の【資料2】に示す関係があります。
    【資料2】
    (D/Eレシオ)=(他人資本比率)÷(自己資本比率
    上記【資料1】の各指標の定義や、【資料2】の関係式の展開については、次の【資料3】に示す拙著57ページを参照してください。 【資料3】 上記【資料2】にあるD/Eレシオを、他人資本自己資本の関係ではなく、他人資本比率と自己資本比率の関係で表わすのが、経営分析のシブイところです。
    日銀がマイナス金利政策を導入したからといって、企業や個人が、金融機関から借り入れる支払利子率(調達金利)までもが、マイナスになるわけではありません。 企業が負うべき支払利子率(調達金利)を、経営分析では「他人資本コスト率」といいます。 企業が借り入れる他人資本コスト率(支払利子率)がマイナスに転落することはなくても、限りなくゼロに近づく事態は想定することができます。 借金しても、利息がほとんど付かないのであれば、借金(他人資本)を増やすことに抵抗を感じません。 企業が行なう設備投資には不確定要素が多いのに対し、不動産投資には不確定要素が少なく、それが昨今の不動産投資信託(REIT)に人気が集中している理由でもあります。

    REITは銀行借り入れや社債発行で資金を調達し、新たな不動産物件を仕入れる。

    金利が下がれば支払金利が減って利益が押し上げられ、それが投資家に支払われる分配金の増加につながるという好循環が生まれる。

    日本経済新聞2016年2月26日

    借金が借金を生む好循環が連なると、どうなるか。 次の【資料4】に示す命題が成り立ちます。
    【資料4】
    1. 他人資本比率は、限りなく「100%」に近づく。
    2. 自己資本比率は、限りなく「0%」に近づく。
    3. D/Eレシオは、「無限大」に向かう。
    上記【資料4】は、当たり前といえば当たり前の命題です。
    いままでの説明を図解してみましょう。 次の【資料5】は、経済学やファイナンス論の世界では、当たり前のように掲載されている図表です。
    【資料5】
    画像
    上記【資料5】は、ノーベル経済学賞を受賞したMM理論を図解したものとして、あまりに有名です。
    上記【資料5】において、横軸OKは、使用総資本を表わします。 すなわち、横軸OKは「使用総資本100%」です。 上記【資料5】の原点Oでは、他人資本比率が0%。 つまり、自己資本比率が100%ということ。 このときの企業価値(縦軸)は、線分AOで表わされます。 MM理論によれば、他人資本比率を高めていくと、節税効果が生まれます。 そこで【資料5】の横軸上において、原点O → 点G → 点H → 点J へと、他人資本比率を高めていくと、節税効果が働くので、点A → 点B → 点Cへと、企業価値(縦軸)が高まっていきます。
    ところが、借金を増やしすぎると(他人資本比率を高めすぎると)、「負債過多」に陥ります。 「借金を返済するために、新たに借金を作る自転車操業」に陥る可能性が高くなります。 これにより、【資料5】の線分CEまたは線分DFで表わされる倒産リスクが増大することになります。 かくして企業価値は、右肩上がりの直線ABCDで上昇するのではなく、「おわん型」の曲線ABEFに沿うようになります。 そうなると、おわん型の頂点にあたる点Eあたりが「ちょうどいい案配」ということになります。 この点Eで、縦軸にある企業価値は最大になるぞ、というのが、MM理論です。
    上記【資料5】の横軸に注目します。 企業価値を最大にするのが点Eなのだから、横軸上の点Jが、他人資本比率(線分OJ)と自己資本比率(線分JK)との最適な組み合わせを決定する座標になります。 点Jのところを、最適資本構成といいます。 したがって、横軸上の線分OJが「最適な他人資本比率」となり、線分JKが「最適な自己資本比率」になります。 最適な他人資本比率を「v」とすると、最適な自己資本比率は「1-v」で表わされます。 以上が、MM理論です。
    経済学やファイナンス関連の書籍であれば、以上で説明した「企業価値」や「最適資本構成」の論点が必ず掲載されています。 MBAホルダーたちを輩出するビジネススクールでも同様の説明が行なわれています。 ところが、企業価値や最適資本構成の論点に関する最大の欠点は、最適な他人資本比率(線分OJ)や、最適な自己資本比率(線分JK)を求めるための「一般公式が存在しない」という点にあります。 次の【資料6】に示す書籍65ページで、明確に言及されています。 【資料6】 最適資本構成に一般公式は存在しないにもかかわらず、世間では「奇妙キテレツな通説」が罷り通っています。 次の【資料7】に掲げるものです。
    【資料7】
      自己資本比率は、50%以上であることが望ましい。
    メディアでも、上記【資料7】に基づいた記事が、ときどき掲載されることがあります。

    上場企業の自己資本比率は平均40%程度なので、この水準を上回っていれば合格圏だ。

    50%以上なら経営の安定度は高く、60~70%あればかなりの優良企業といっていい。

    日本経済新聞2015年7月6日

    自己資本比率50%以上が望ましいというのであれば、次の【資料8】のような方程式が存在しなければなりません。
    【資料8】
    最適な自己資本比率 ≧ 50%
    ところが、【資料8】のような、一般的な方程式は存在しない、とするのが、現代の経済学やファイナンス論の通説です。 また、上記【資料8】が正しいとするならば、【資料4】の「(2)自己資本比率は、限りなく「0%」に近づく」は成り立たず、不動産投資信託REIT)はギャンブルの世界になってしまいます。 「経済学は実務に役立たない」といわれる一端を、企業価値や最適資本構成の問題で、垣間見ることができます。
    いいや、そんな愚かな話があってたまるか。 「最適資本構成に一般公式は存在しない」という通説に、たった一人で反旗を翻して組み立てたのが、次の【資料9】の方程式です。
    【資料9】
    画像
    上記【資料9】の方程式を図解したのが、次の【資料10】です。
    【資料10】
    画像
    上記【資料5】の曲線ABEFと、【資料10】の曲線APBとは、どちらも「おわん型」をしています。 ただし、【資料5】の曲線ABEFは、経済学が説く「机上の空論」であり、この曲線から、一般公式や実務解を導くことはできません。 それに対し、【資料10】の曲線APBは、【資料9】の方程式によって描かれるものであり、以下の通り、実務に役立つ一般公式と実務解を導きます。
    ということで、上記【資料9】を微分すると、次の【資料11】の一般公式を導くことができます。
    【資料11】
    画像
    例えば、自己資本利益率(ROE)の目標を、8%とする上場企業が多いので、自己資本コスト率を8%とします。 なぜ、自己資本利益率ROE)を、自己資本コスト率として扱えるのか、その理由は拙著『[決定版]新・ほんとうにわかる経営分析』192ページで説明しています。 他人資本コスト率は、0.5%としましょう。 以上の値を【資料11】に代入すると、最適な自己資本比率は「5.9%」になります。 総資産1,000億円の企業の場合、総負債941億円、純資産59億円という資本構成に至ったとき、その企業価値は最大になります。 以上が、次の拙著で説明している「最適資本構成タカダ理論」です。 上記【資料9】から【資料11】までの方程式や図解は、日本だけでなく、欧米の書籍にも存在せず、私(高田直芳)オリジナルの理論です。
    最近は、「企業価値」などを得意気に語る人たちを、あちこちで見かけるようになりました。 日本経済新聞で、過去1年分を検索すると、「企業価値」という語を用いた記事が451件もヒットします。 企業価値などを安易に語る人たちへ、次の警告を行なう。
    • 企業価値、最適資本構成、自己資本比率などをを語るのなら、まずは一般公式を提示せよ。
    • 実務に役立たぬ「机上の空論」を振りかざすな。

    さて、日銀のマイナス金利政策が、企業業績にどのような影響を及ぼすのかを、最適資本構成タカダ理論で解き明かしてみましょう。 万が一の可能性として、日銀のマイナス金利政策に呼応して、企業の他人資本コスト率がマイナスに転落したらどうなるか。 上記【資料11】の「最適な自己資本比率」は、マイナスに転落します。 自己資本がマイナスになるというのは、総負債が総資産を上回ること。 すなわち、債務超過になるのです。 なお、債務超過には少なくとも3通りの計算方法があることを、拙著『[決定版]新・ほんとうにわかる経営分析』108ページから110ページまでで説明しています。
    債務超過に転落するリスクを冒してもなお、負債を増加させるには、それなりの勝算がなければなりません。 企業が、新規の設備投資に尻込みするのは、勝算が見込めないからでしょう。 ところが、勝算が見込めないのに、「債務超過に転落してでも設備投資に励め」「それが企業価値を最大化することだ」と企業に奨励するのが、日銀のマイナス金利政策です。 この政策が如何に異常な事態を招来するか、それを証明するのが「最適資本構成タカダ理論」の威力です。
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