公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:生産性向上に騙された企業が陥るスパイラル現象


生産性向上に騙された企業が
陥るスパイラル現象

[決定版]新・ほんとうにわかる経営分析
補足説明


2016年3月4日付の日本経済新聞1面に、「サービス生産性、伸び2倍、20年政府目標、GDP底上げ、IT投資補助、規制緩和も」というタイトルの記事が掲載されていました。
「数学嫌い」の人が、文章だけの評論で生産性を検討すると、見当外れの経営戦略が展開され、数年後に「なぜだ!?」と苦悩することになります。
こういうときに必ず用いられる言い訳は、「政治が悪いのだ」と。
いいえ、経営分析をきちんと学ばずに、文章だけの評論で、見当外れの経営戦略を展開したアナタが悪いのです。
それを以下で論証してみましょう。
まず、生産性とは何か。 上掲の記事では、「労働生産性」を次の【資料1】のように定義しています。
【資料1】

労働生産性

    1人の労働者が働いた成果として、商品やサービスの付加価値をどれだけ生み出したかを示す指標。
    より少ない人数で売り上げを伸ばしている場合などに高くなる。
日本経済新聞2016年3月4日)
上記【資料1】のポイントは、付加価値にあります。
付加価値というと、ぼんやりとした概念です。 これは次の【資料2】の式で算出することができます。
【資料2】
付加価値 = (当期純利益) + (固定費)
なぜ、【資料2】の式で付加価値が求められるのだ? と疑問を抱く場合は、次の【資料3】に示す拙著170ページを参照してください。 【資料3】 個人的な書籍に掲載された定義では「信用できない」というのであれば、財務省の外郭団体である財務総合政策研究所の、次のサイトで確認してください。
【資料4】 財務総研TOP > 統計資料 > 法人企業統計調査 > キーワードで見る法人企業統計 > 付加価値率
オカミの権威を示さなければ納得できないその姿勢では、経営戦略を誤るのも、もっともな話だといえるでしょう。
上記【資料2】の式によれば、付加価値を増やすには、右辺第1項の当期純利益を増やすか、第2項の固定費を増やせばいいことになります。 右辺第1項と第2項を同時に増やせば、付加価値は飛躍的に増大するでしょう。 それを労働者数で割ったのが、労働生産性。 少数精鋭主義の企業ほど、労働生産性は高くなります。
ところが、です。 そこに大きな落とし穴が待ち受けています。 例えば、日本経済新聞の過去1年間の記事で、「固定費削減」という語を検索すると、88本もヒットします。 固定費削減は、経営課題の一つだといえるでしょう。 そうなると、固定費の削減額以上に、当期純利益を増やさなければ、付加価値は減少する一方となります。 しかし、これは、おかしい。
固定費削減でやり玉に挙げられるのは、モノよりも、ヒトです。 モノを売却するには半年や1年の時間を要しますが、ヒトの給与は管理職を中心に明日から下げようと思えば下げられます。 ヒトという固定費を減らすことは、ノウハウの流出になりますから、【資料2】の左辺にある付加価値を絶対的に減少させます。
    → 付加価値が減れば、【資料2】の右辺第1項の当期純利益を絶対的に減少させます。
      → これはさらに、【資料2】の左辺にある付加価値を減らします。
こうした「負の連鎖」を、スパイラル現象(きりもみ状態)といいます。
ときどき、「固定費を削減せよ。付加価値を上昇させよ」というスローガンを掲げた企業に、お目にかかることがあります。 これが如何に矛盾したものであるか、以上の説明で明らかでしょう。 1人あたりの生産性を上げようとして、ヒトを減らすことは、付加価値を逆に減らすことに気がつかないと。 以上の説明は概略です。 上記【資料3】に掲げた拙著173ページでは、文章による分析ではなく、きちんとした数式を用いて、付加価値が「きりもみ状態」で低下していく様子を説明しています。
シャープの業績悪化の原因としてしばしば語られるものに、次の記事で代表されるものがあります。
シャープは2009年、世界最大級の液晶パネル工場として堺工場を稼働させたが、巨額赤字の原因となった。(日本経済新聞2016年3月8日)
赤字の端緒は、堺工場にあるのでしょう。 しかし、その後の業績が回復しないのは、人減らしにあります。 上記【資料1】の記事をもう一度、読み返してください。 労働者を解雇するということは、その労働者が生み出す成果を放り出すということであり、付加価値を絶対的に減らすことになります。 ヒトを減らせば、残った者たちの1人あたりの付加価値(=労働生産性)は高まるだろう、と解釈するのは大間違い。 人員の減少を上回るスピードで、付加価値は大きく減るのです。
東芝はどうか。 東芝メディカルをキヤノンに売却することによって、当面の資金繰りに心配はないのでしょう。 しかしながら──。
売却で得る資金は人員削減などのリストラ原資に使い、一部は成長投資にも振り向ける。(日本経済新聞2016年3月10日)
人員削減は、東芝の付加価値を急速に低下させる可能性があります。 十年後の東芝はどうなっているのか。 「業績のスパイラル現象」で喘ぐ事態に陥らなければいいが、と懸念するのであります。