公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:上場企業はなぜ監査法人を見下すのか


上場企業は、なぜ
監査法人を見下すのか


いまは、四半期ごとに決算が行なわれます。 特に3月末日を年度末としている上場企業は、決算業務と会計監査への対応で、多忙な日々を送っているはず。
会計監査については、2015年の東芝問題で、上場企業に対して強気の姿勢を見せる監査法人が多いと推測しています。
監査法人諸君へ、ひと言、アドバイス。 あなたがたは「机上の空論」を振りかざすのは得意だが、企業実務の何たるかを理解していないのだから、間抜けな発言を繰り返して、上場企業から見下されないように。
見下される典型的な例を、以下で紹介しましょう。
決算に係る会計監査が終了すると、監査法人は上場企業に対して、監査報告書というものを交付します。 これには、短文式と長文式とがあります。 短文式監査報告書は、法令の様式に従った1枚ものであり、有価証券報告書に添付されて公表されます。 長文式監査報告書は、監査法人が、上場企業に対して改善を求める事項を記した文書です。 複数ページで構成され、対外厳秘であり、第三者の目に触れることはありません。
この長文式監査報告書が、上場企業の間で、監査法人を見下す元凶になっているらしい。 その事実を、監査法人自身が気づいていない、という点に、哀れを感じてしまうのであります。
例えば、次のような事例が想定されます。 2015年の後半からアベノミクスの効果も息切れし、日銀のマイナス金利政策も逆効果で、上場企業の多くで業績が右肩下がりの傾向を示しています。 このとき、損益計算書の売上原価を構成する予定原価(または標準原価)も、業績の右肩下がりに比例して、どんどん小さくなっていきます。 この場合の比例定数は、変動費率です(←変動費ではありません)。
そこで問題となるのが、実際原価(または実績原価)です。 業績の右肩下がりに比例して、実際原価も比例して小さくなればいいのですが、現実は甘くない。 本社や工場などの不動産は、細切れに売却できないからです。 従業員は労働法で保護されていて、そう簡単にリストラできないからです。 業績が右肩下がりになっても、削るに削れないコスト(固定費)が、実際原価(実績原価)に内在することになります。 その結果、予定原価(標準原価)と、実際原価(実績原価)とが大きく乖離します。 両者の差額を、原価差異(または原価差額)といいます。
年度末で累積する原価差額に対して、監査法人は「基準操業度を見直すべし」と、長文式監査報告書で平然と記載します。 これが、「実務の苦労も知らぬ若造が──」と、上場企業を激怒させます。 監査法人に面と向かって言う上場企業はいませんが、そういう声があることを知っておいたほうがいいでしょう。 だからこそ、企業内部の会計不祥事に危機感を持った人は、監査法人を信用せず、金融庁証券取引等監視委員会へ直接、告発するのです。 2015年に起きた東芝問題は、監査法人への信頼が皆無であることを証明してくれました。
基準操業度に話を戻します。 これは、企業会計審議会が制定した会計基準原価計算基準』に登場します。 稼働率を予算に見立てたようなもの。 作業時間、機械稼動時間、生産数量などのことです。 基準操業度は、向こう1年間の見積もりに基づいて策定されます。 しかし、いまの時代、向こう1年間の見積もりなど立てられるわけがない。 例えば、監査法人諸君よ、あなたがたは、自分たちの、向こう1年間の監査従事時間を見積もれるというのだろうか。 不祥事があれば監査契約は切られるし、課徴金は課せられるし、かといって監査法人の職員はおいそれとはリストラできないし。 向こう1年間に起きる出来事など、予測できるわけがない。 監査法人が、自らの基準操業度(監査従事時間)を見積もることさえできないのに、上場企業に対して「基準操業度を見直せ」と要求できるのか。
四半期(3か月)ごとであれば、基準操業度の見直しは可能とでもいうのでしょうか。 残念ながら、企業会計審議会の会計基準原価計算基準』に、四半期という概念はありません。 『原価計算基準』は、昭和37年(1962年)に制定されて以来、一言一句、改正されたことがない会計基準です。 当時(昭和37年)は、四半期どころか、上期と下期に分けた中間決算も制度化されていませんでした。 『原価計算基準』が定める基準操業度は、1年間の1本勝負なのです。 それにもかかわらず、四半期ごとに基準操業度を見直せ、と要求するのは、会計基準の歪曲も甚だしい。
昭和37年(1962年)以降、一度も改定されたことがない『原価計算基準』には、次のような矛盾もあります。
  • 当時は、1960年代の高度成長時代の始まりであり、単一製品を大量生産する時代でした。
  • 当時は、作ったものはすべて売れる、と信じられていました。
    • 過剰在庫に悩む企業経営者からすれば、羨ましい限りです。
  • 当時の製品サイクルは、1年は優に超えました。
    • 現在の、半導体の製品サイクルは、3か月もあればいいほうです。
  • 当時の機械装置は、ヒトの作業を補助する程度でした。
    • 現代は、無人化工場が主流であり、ヒトは機械装置を監視するだけです。
こうした理論背景を理解せずに、会計基準に書かれてあるとおりに、長文式監査報告書で「基準操業度を見直せ」と主張する監査法人は、時代錯誤も甚だしい。
また、現代の原価計算制度には、「理論上の瑕疵」があることを忘れてはいけません。 『原価計算基準』では、配賦という概念を用いて、公式法変動予算を中心に構成されています。 公式法変動予算は、公認会計士なら誰もが学んできたように、1次関数(  )で描かれます。 1次関数というのは、単利計算です。 すなわち、企業会計審議会『原価計算基準』は、単利計算構造で構成されている、ということです。 ところで、現実の企業活動では、次に示す事実を観察することができます。
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。

    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。

    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。

    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。

    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。

    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。

    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。

    • 入金と出金を無限回数で繰り返すその様は、無限で連鎖する複利計算を行なっていることと同じです。
  • 株式市場や仮想通貨市場を観察してみてください。

    • 人気が沸騰すればするほど、限りなくゼロに近い時間軸の中で、膨大な数の取引が行なわれます。

    • 買いが買いを呼び、売りが売りを呼ぶその経済現象は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • マクロ経済の産業連関表を観察してみてください。

    • ある産業で生産された中間財は次の産業へ投入され、そこで生産された中間財は次の産業へと投入されていきます。

    • その流れは、マクロ経済レベルで、無限回数の複利計算を行なっていくことと同じです。
すなわち、企業のコスト構造やミクロ・マクロの経済構造は、無限回数で連鎖する複利計算機構を内蔵していることがわかります。 それにもかかわらず、単利計算構造で構成されている『原価計算基準』を、企業に強要して、あなたがたは恥ずかしくないか。
東芝問題以降、監査法人に「力量」を求める声が多くなりました。 自らはできないのに、相手に要求するその姿勢で、長文式監査報告書を作成しては、およそ力量があるとは思えない。 相手を批判するのであれば、おのれの力量を著わした書籍の1冊でも書いてみるべきでしょう。 上掲の書籍はどちらも、単独執筆で、1冊640ページもの。 2冊合わせて、1280ページになります。 編著や共著などは、おのれの力量を表わすものではありません。 「藁(わら)は何本束ねても、藁でしかない」ことを知りましょう。 私は、名刺代わりに上掲の書籍を提示することで、企業に四の五のと言わせない。 そして、「基準操業度を一緒に見直しましょう」とアドバイスします。 その後、どうするかは、次のブログ『勘定連絡図に、上場企業の「力量の小ささ」が大きく現われる』にて。
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