公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:コスト削減活動やカイゼン活動は自己資本利益率ROEを改善させない


コスト削減活動やカイゼン活動は
自己資本利益率ROEを改善させない


「会計嫌い」や「数値嫌い」の人たちが陥る錯覚に、「コスト削減活動やカイゼン活動に取り組めば、企業の利益は必ず増大するのだ」というものがあります。 ひいては、「ROE(自己資本利益率)は上昇するのだ」とも。
上記の考えは錯覚であり、誤りであることは、経済学で古くから証明されています。 ところが、会計や経済学を毛嫌いする人たちは、自らの錯覚、というか、愚かさに気がつかない。
それを以下で証明してご覧に入れましょう。
まず、錯覚の原因となるものを、【資料1】に掲げます。
【資料1】損益計算書       (1) 売 上 高       (2) 総 費 用          (3) 当期純利益
コスト削減活動やカイゼン活動は、【資料1】(2)の総費用を減らすことにあります。 【資料1】(1)の売上高が伸びなくても(一定であっても)、同(2)の総費用を減らすことができれば、同(3)の当期純利益は増加します。 コストを減らせば、利益は増える。 小学生でも理解できる「足し算・引き算」の世界です。
最近のCMで「常識を疑え」というキャッチコピーを見かけました。 なんと白々しい言葉であることか。 「コストを減らせば、利益は増える」というのは、誰も疑いようのない常識です。 それを疑え、と主張するのは、「オマエ、おかしいんじゃないの?」と非難されそうです。 しかしながら、その非難の言葉を、そっくりそのまま、お返ししましょう。
次の【資料2】は、あらゆる経済学書に掲載されている例に倣い、需要と供給の均衡状態を描いたものです。
【資料2】
画像
上記【資料2】に似た図表は、次の【資料3】に掲げた経済学の書籍いずれにも掲載されています。
【資料3】
上記【資料2】で、需要曲線と供給曲線が交わる点Lは、需要と供給が一致する均衡点です。 この均衡点Lのもとで、均衡数量(点B)と均衡価格(点E))とが決まります。
ところが、製品や商品を供給する企業で取り組まれているコスト削減活動は、点Lを目指すものではありません。 点Lは、「量産効果の底」を示す均衡点ではないからです。 量産効果は、スケールメリット scale merit ともいいます。 コスト削減活動やカイゼン活動というのは、ムリ・ムラ・ムダを排除して、製品または商品「1個あたりの平均コスト」を減らす努力をすることをいう、と定義します。 そうした活動の行き着く先にあって、1個あたりの平均コストが「最小になる」のが、「量産効果の底」です。
そこで、です。
【おそろしい結論、その1】 「量産効果の底」は、需要と供給の均衡点Lではなく、もっと右の点Jになります。 点Jにおいて、灰色で描いた平均コスト曲線が最小になります。 製品や商品の売り手である企業は、受給の均衡点Lで満足してはならず、もっともっとコスト削減活動に取り組む必要があることがわかります。
【おそろしい結論、その2】 幸いなことに【資料2】の点Jに辿り着いた企業があったとしても、その企業が販売する製品や商品の価格(縦軸)は、点Eではなく、点Fでもなく、点Dにまで引き下げられます。 すなわち、コスト削減活動やカイゼン活動の先にあるのは、自社製品の「買い叩き」という、憂き目です。 中小企業が懸命にコスト削減活動に取り組もうとも(点Jを目指そうとも)、元請けの大企業から買い叩かれる理由が、ここにあります。 「働けど働けど、中小企業の暮らし楽にならず」の真相です。
【おそろしい結論、その3】 企業にとって利益最大化条件を満たすのは、点Lでもなく、点Jでもなく、点Mでもなく、点Hになります。 点Hの均衡数量は点Aになり、均衡価格は点Gになります。 均衡数量の点Aは、需要と供給が一致する点Bよりも少なく、量産効果の底を表わす点Cよりも、もっと少ないところにあります。 すなわち、自社製品の量産効果を発揮させようとして(点Jのもとでの点Cを目指そうとして)取り組むコスト削減活動と、企業の利益を最大化しようとするインセンティブ(点Aを実現すること)とは、決して一致しないことを表わしています。 企業経営者が目指すもの(利益の最大化=点H)と、現場が目指すもの(コスト削減活動=点J)とは、相容れないのです。
【おそろしい結論、その4】 上記【資料2】において、横軸上の点Aから見た場合、点Cの位置は「過剰生産力」を表わします。 その反対に、点Cから見た場合、点Aの位置は「操業度不足」として映ります。 現場がどれほど懸命にコスト削減活動に取り組もうとも(点Jを目指そうとしても)、経営者が利益の最大化を求めようとする(点Hを目指そうとする)限り、いつまで経っても操業度不足(過剰生産力)は解消できないのです。
『マンキュー経済学Ⅰミクロ編 第3版』では、次の記述があります。
【資料4】

独占的競争企業は生産量を増やすことで、生産にかかる平均費用を減らすことができる。

企業がこの機会を見送るのは、追加的な生産量を売るためには価格を下げる必要があるからである。

独占的競争者にとっては、過剰生産力を維持して操業を続けるほうが利益になるのである。

この和訳は難読です。 要するに、上記【資料4】において見送られる「機会」とは、「平均費用を減らす活動」のことです。 つまり、コスト削減活動やカイゼン活動はやめたほうがいい(見送ったほうがいい)ということ。 上記【資料4】にある「価格を下げる必要がある」とは、買い叩かれることです。 固定費削減を中心としたリストラなどを行なわず、過剰生産力を維持して企業活動を行なうほうが、【資料1】(3)の当期純利益を増やすことになる──、それが経済学の教えるところです。
昨年(2015年)以降、「ROE経営」というものが注目されています。 いままでの説明から明らかなことは、ROE自己資本利益率)の上昇と、コスト削減活動・カイゼン活動とは、「相容れない」ということです。 現場にコスト削減を強要しながら、その一方で、ROE経営を標榜する企業を見かけたら、「アンタ、それって、おかしいんじゃないの?」とアドバイスしてあげましょう。
いままでの説明で唯一の救いがあるとするならば、有価証券報告書などを利用して、【資料2】を具体的に実証した研究が、経済学ではまったく行なわれていないことです。 経済学者が描く【資料2】は、「机上の空論」にとどまります。 それに対して、私(高田直芳)は、「机上の空論」では終わらせないコンサルティング方法を、以前のブログ『【高田原計/旧・原価計算工房】と【タカダ式コンサルティング】』で述べました。
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