公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:工事進行基準と工事完成基準は粉飾決算の巣窟なり

いま、いくつかの企業で、原価計算コンサルティング管理会計コンサルティングを手掛けています。

コンサルティングの概要はこちら

企業規模の違いはあるものの、部品については総合原価計算制度を適用し、その部品を用いた完成品については個別原価計算制度を適用する、というパターンは、各社とも共通しています。
上場企業ともなると、その規模の大きさから、後者(個別原価計算制度)に「工事進行基準」を適用するケースが多くなります。
また、建設業界に限らず、ソフトウェア開発やプラント開発でも、工事進行基準が採用されています。
工事進行基準といえば、2015年に公表された、東芝の第三者委員会調査報告書でも、大いに問題とされた会計処理でした。
ただし、私(高田直芳)にいわせれば、工事進行基準に限らず、工事完成基準のほうも、粉飾決算に陥りやすいリスクを抱えています。 以下でそれを、暴露しちゃいましょう。
工事進行基準や工事完成基準、それから積算(または「実行予算」のこと)を規律する会計基準としては、次のものがあります。
【資料1】
上記【資料1】にある第15号基準と第18号指針で、「見積り」や「見積る」を検索すると、合計で110件もあります。 見積もり──。 なんと、甘美な響きであることか。 工事進行基準などが如何に恣意性にまみれたものであるかが、この語だけでも納得できてしまいます。 積算を組む者が100人いたならば、100通りの積算ができあがる、ということです。 「そのようなことはない。わが社は、システムに多額の費用を投じて、建設業会計ソフトを導入している。誰が積算を行なっても同じ数値になるぞ」と主張することでしょう。 しかしながら、そのシステム自体に、「理論上の瑕疵」があったら、どうなりますか? そのシステムの前提となる会計基準に、「理論上の瑕疵」があったら、どうなりますか?
上記【資料1】の第15号基準6(6)では、次の条項があります。
【資料2】

「工事原価総額」とは、工事契約において定められた、施工者の義務を果たすための支出の総額をいう。

工事原価は、原価計算基準に従って適正に算定する。

上記【資料2】にある「原価計算基準」とは、企業会計審議会が定めた『原価計算基準』のことを指します。 その『原価計算基準』は、いつ、定められたものか、知っていますか? 答えは、1962年(昭和37年)です。 1962年(昭和37年)に制定されて以来、今日に至るまで、何度の改正があったか、知っていますか? 答えは、一言一句、改正されたことがありません!
東海道新幹線が開通したのは、『原価計算基準』が制定された2年後の1964年です。 第1回の東京オリンピックが開催されたのは、『原価計算基準』が制定された2年後の1964年です。 アニメ『鉄腕アトム』のテレビ放映が開始されたのは、『原価計算基準』が制定された翌年の1963年です。 企業会計審議会『原価計算基準』が制定されたのは、鉄腕アトムよりも前なのです。 しかも、1962年(昭和37年)から、今日に至るまで、一言一句、改正されたことがない。 それにもかかわらず、『原価計算基準』に基礎を置く工事進行基準や工事完成基準は正しいのだと、ゼネコンから中堅中小の建設会社に至るまで、そう思い込んでいるのです。
1962年(昭和37年)に制定された会計基準であっても、そこに「理論上の瑕疵」がなければ、なんとかなる。 しかしながら、建設現場に限らず、様々な企業活動を観察していると、次の【資料3】に示す事実を理解することができます。
【資料3】
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。
    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。
    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。
    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。
    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。
    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。
    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。
    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
つまり、企業のコスト構造の本質は、複利計算構造にあることがわかります。 それを明らかにしたのが、次の受賞論文です。
一方、建設業界が採用している【資料1】の会計基準や、その基礎となる『原価計算基準』の根底にある計算方法は何か。 答えは、1次関数を利用した配賦計算です。
1次関数とは、単利計算構造のこと。 あっちの建設現場でも、こっちの建設現場でも行なわれているのは、単利計算構造に基づく工事進行基準であり、単利計算構造に基づく工事完成基準なのです。 複利運用された預金利息を、単利計算の式で「積算」できると思いますか。 「できるのだ」というのが、工事進行基準であり、工事完成基準なのです。 建設業界は、「這っても黒豆」の世界というべきか。 工事進行基準や工事完成基準を採用しているソフトウェア業界やプラント業界は、「同病相憐れむ」といったところか。
工事進行基準で、粉飾疑惑を払拭することができないのは、複利計算構造を内蔵する工事案件に、単利計算構造の積算を無理矢理、当てはめようとするからです。 上記【資料1】にある第15号基準の第57項では、工事進捗度の基礎となる原価比例法・直接作業時間比率(工数基準)・施工面積比率などが定められていますが、これらはすべて単利計算構造に基づいた配賦計算です。 単利計算構造の配賦計算を1次・2次・3次と繰り返しても、複利計算構造を内蔵する工事原価を解き明かすことなどできるわけがない。 工事を始める前から、すなわち積算を組む前段階で、工事進行基準や工事完成基準はすでに破綻しているのでした。 工事着手後、辻褄の合わない工事原価の、ツジとツマつまを合わせようとするから、粉飾決算に手を染めざるを得なくなるのです。
その粉飾は、どのようにして行なわれるのか。 暴くためのヒントを提示しておきましょう。 個々の工事案件を精査しても、発見することはできません。 個々の工事案件に間接費を配賦した後の「残材」に、粉飾テクニックが施されています。 なにしろ、その残材の構成物は、単利計算構造と複利計算構造の矛盾を寄せ集めたものなのだから。 くさいものにフタをするのは、建設業者であれば、お手の物でしょう。 次のブログでは、間の抜けたコンサルティングによって、いくらコスト削減活動に取り組んでも、原価差異が解消されない事例を紹介しました。
【関連ブログ】
上記のブログで説明している原価差異のフタを開けると、得体の知れぬ残材が出るわ出るわ。 人差し指でひっかけるのも、躊躇(ためら)われるほどに。 その底に広がっているのは、「粉飾決算の巣窟」です。
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