公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:会計学が経済学から見下されるこれだけの理由


会計学が経済学から見下される
これだけの理由

[決定版]新・ほんとうにわかる経営分析
補足説明


今回は「会計学、見下され問題」を扱います。
管理会計や経営分析の世界では、CVP分析が、絶対的通説として君臨していることを、いままでに何度か紹介してきました。 CVP分析は、損益分岐点分析・限界利益分析・線形回帰分析とも呼ばれます。
そして、このCVP分析が絶対的通説として君臨し続ける限り、これに基礎を置く会計学という分野は、経済学などから見下され続けることを、警告せざるを得ないのです。
なぜなら、CVP分析は、量産効果が無限に働くことを想定しているからです。 経済学では「量産効果」ではなく、「規模の経済」といいます 。 量産効果も規模の経済も、原語はスケールメリット scale merit です。 「量産効果」も「規模の経済」も実質は同じなので、以下では「量産効果」の用語で話を進めていきます。
CVP分析(損益分岐点分析)は本当に、量産効果が無限に働くことを想定しているのでしょうか。 もし、それが本当ならば、管理会計や経営分析を含めた会計学という分野は、経済学から見下されても仕方がないことになります。 会計の専門家である筆者の立場からしても、これは憂慮すべき問題です。 以下で検証してみましょう。
次の【資料1】は、経済学の教科書であれば必ず見かける「量産効果(規模の経済)」の説明図です。 【資料2】は、会計を扱う書籍であればどこでも見かける「量産効果」の説明図です。 【資料1】と【資料2の】両図とも、その横軸を売上高としています。
【資料1】経済学の量産効果  【資料2】会計学の量産効果
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【資料1】上段は、経済学の教えに倣い、総コスト曲線ABCDを2次関数で描いています 。 3次関数で描く方法もあります 。 2次関数や3次関数を扱った経済学書については、次の【資料3】を参照してください。
【資料3】
いずれにしろ、経済学では総コストを「直線」で描くことはしません。
【資料1】上図にある総コスト曲線に基づいて量産効果曲線を描いたのが、【資料1】下図になります。 点E → 点F → 点Gは、「販売価格1円あたりの平均コスト」が低下していく過程を表わしており、これが経済学のいう「量産効果(規模の経済)」です。 【資料1】下図の特徴は、点Gよりも売上高が増えると(点Hへ向かうと)、「販売価格1円あたりの平均コスト」が上昇する点にあります。 逆に、点Hから点Gへ向かうことを、減産効果といいます。
日本経済新聞2015年12月1日

新日鉄住金など鉄鋼大手は15年4月以降に大幅な減産に踏み切り、在庫調整は進みつつある。

だが「在庫減は減産効果によるもので、需要増の現れではない」(日本鉄鋼連盟)のが現状だ。

量産効果と減産効果とが出会うところ、すなわち【資料1】下図にある点Gが、「量産効果の底」になります。 経済学では、量産効果が無限に働く、といった愚かな結論を導き出しません。
【資料2】上図はCVP図表(損益分岐点図表)であり、総コスト直線ABCを1次関数で描いています。 これに基づいて量産効果曲線を描いたのが、【資料2】下図になります。 【資料2】の点E → 点F → 点Gは「販売価格1円あたりの平均コスト」が低下していく過程を表わしており、【資料1】下図と同様の量産効果を観察することができます。 ここまでは、経済学の量産効果の説明とまったく同じです。
ところが、です。 【資料2】下図で描かれた量産効果曲線は、点Gを超えて点Hに向かっても、まだまだ量産効果が働きます。 点Hよりさらに右へ行っても、量産効果は永遠に働くのです。 ましてや、先ほどの記事で紹介した「減産効果」など、会計学では「理論上あってはならない話」になります。 【資料1】下図と【資料2】下図それぞのれ点Gと点Hの「方向性」を見比べれば、その違いは明らかです。
企業実務において、量産効果が無限に働くことなどあり得ません。 もし、それがあり得るのならば、次の関連ブログで述べたように、世にある企業はすべて、ペーパークリップやツマ楊枝だけを生産し、販売していればいいのです。
【関連ブログ】
重ねて記述しますが、企業実務において、量産効果が無限に働くことはあり得ません。 ところがCVP分析では、【資料2】下図で表わされるように、「量産効果は無限に働く」ことを主張するのです。 このように愚かな理論を展開していては、会計学が見下されても仕方がないことになります。
【資料2】のCVP分析(損益分岐点分析)は、なぜ、「量産効果は無限に働く」といった、企業実務では決してあり得ない理論構成を採用しているのでしょうか。 上場企業のライオンとアース製薬のデータで、その理由を探ってみました。 次の【資料4】は、横軸に売上高、縦軸に総コストを設定し、ライオンとアース製薬の四半期業績(2011年6月期から2013年6月期までの9四半期)を、年間ベースに直して分布させたものです。
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【資料4】を見ると、ライオンもアース製薬も、9個の点が左下から右上へ「直線形」で並んでいます。 CVP分析ではこの現象を捉えて、【資料2】にあるとおり、総コスト直線を1次関数で描きます。 「なんとかの一つ覚え」の感はありますが、CVP分析にも「一分の理」があるといえるでしょう。
【資料4】では、9個の点を1次関数で繋いで縦軸へ延伸した先に、「CVP固定費」を表示しています。 「CVP分析によって求めた固定費」のことであり、ライオン667億円、アース製薬289億円と表示しています。 【資料4】の結果に基づき、会計学からは、経済学に対し、次のような反論が行なわれます。 「経済学は、【資料4】で分布する9個の点を、どうやって2次関数や3次関数で描くのか」、また「縦軸の固定費を、どうやって求めるのか」と。 経済学は、ぐうの音も出ません。 確かに、上場企業の有価証券報告書などを用いて、総コストを2次関数や3次関数で描いてみせた経済学書や学術論文を、私(高田直芳)は読んだことがありません。 【資料1】にある上下の図は、企業実務に役立たない観念図なのです。
上記【資料3】の書籍を、何度となく読み返しても、総コスト(経済学では「総費用」といいます)を、固定費(経済学では「固定費用」といいます)と変動費(経済学では「可変費用」といいます)とに分解する方法を一切説明しないのです。 上場企業の有価証券報告書などを用いて、総コスト(総費用)を2次関数や3次関数で描けないのですから、固定費(固定費用)と変動費(可変費用)とに分解する方法を、経済学が説明できるわけがないのです。 経済学が総コスト(総費用)を2次関数や3次関数で描いたり、固定費(固定費用)や変動費(可変費用)などの概念を論じたりするのは、経済学者が頭の中で空想した観念論なのです。
私(高田直芳)は、経済学が主張する【資料1】や、会計学が主張する【資料2】はともに、理論面でも実務面でも「瑕疵がある」とする立場です。 まず、現実の企業活動では、次の【資料5】に示す事実を観察することができます。
【資料5】
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。
    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。
    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。
    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。
    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。
    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。
    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。
    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
つまり、企業のコスト構造の本質は、複利計算構造にあることがわかります。 上記【資料5】の命題に基づいて、企業のコスト構造を複利関数で描いたのが、次の【資料6】のタカダ式操業度分析です。
【資料6】タカダ式操業度分析
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上記【資料6】にある曲線ABCDEは、複利関数で描いたものです。 上記【資料6】にある曲線ABCDEは、経済学が説く2次関数や3次関数ではなく、ましてや会計学の説く1次関数でもありません。
アース製薬のデータを使って、【資料6】のタカダ式操業度分析の正当性を証明してみましょう。 次の【資料7】上図は、【資料】右図(アース製薬)と同じ9個の点を配置させたものです。
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経済学の【資料1】上図で描いた総コスト曲線は、2次関数でした。 上記【資料7】上図でも総コストを「曲線」で描いていますが、これは複利関数(正確には「自然対数の底e 」を用いた指数関数)で描いています。 「企業活動は日々複利の連鎖からなる計算構造を内蔵する」という、【資料6】の命題に従うならば、【資料7】上図にある通り、複利曲線(指数曲線)で描くことが、理論面でも実務面でも正しいことになります。
【資料7】上図で総コスト曲線ABCDを描くことにより、その下図では量産効果曲線EFGHを描くことができます。 量産効果曲線EFGHの特徴は、点Gが「量産効果の底」になることです。 【資料7】のタカダ式操業度分析では、【資料2】のCVP分析のように、「無限の量産効果」が働くことはありません。 【資料7】にある点Gが、量産効果と減産効果とが出会うところとなります。 経済学の【資料1】は実証不可能な観念図ですが、【資料7】は具体的な企業データ(アース製薬)を用いて描いたものです。 【資料7】上図の横軸(点J)では、アース製薬にとって「量産効果の底」となる売上高1691億円(タカダ式操業度分析では「予算操業度売上高」といいます)を表示しています。
【資料1】の「経済学の量産効果(規模の経済)」と、【資料2】の「CVP分析(会計学)の量産効果」に話を戻します。 【資料2】によれば、CVP分析は、量産効果が無限に働くことを想定しています。 ですから、固定費、変動費、損益分岐点限界利益(貢献利益・変動利益)といった用語を使い続ける会計学は、今後も、経済学から見下され続けることになります。 なお、本ブログの冒頭で、損益分岐点分析と限界利益分析とを同義のように述べましたが、厳密には次の関連ブログで説明しているように、両者は異なります。
【関連ブログ】
損益分岐点分析などの名称に拘ったところで、五十歩百歩の問題にすぎません。 いずれにしろ、こうした会計学を、「古典派会計学」といいます。 しかし、そういう経済学も、上場企業の有価証券報告書などを使って、量産効果(規模の経済)を実証できないのですから、威張れる資格はありません。
では、これから急速に進歩する人工知能(AI)は、【資料4】の9個の点の並びを見て、企業活動の本質が複利計算構造あることを見抜けるでしょうか。 それは不可能です。 次の記事が参考になります。
日本経済新聞2016年3月21日】

画像認識では、15日まで韓国でプロ棋士と対戦した米グーグルのAIが深層学習(ディープラーニング)というアルゴリズムの威力を見せつけた。大量のデータから自動で特徴を探す。

だが、富士通研は深層学習を使わない。「工場でとれるデータ量は意外と少ない」と担当者は打ち明ける。

現実の工場で動かすと、データの量が足りず期待通りの結果にならないからだ。

【資料4】にある9個の点の並びを見て、それが複利計算構造であることを見抜いたのは、次の受賞論文を書いた私(高田直芳)だけなのです。
数百年にもなる経済学史や会計学史をいくら調べてみても、企業活動の本質が複利計算構造であることを見抜いたのは、私(高田直芳)が初めてであることを申し添えます。
銀行の窓口担当者として、会計学者と経済学者と人工知能(AI)の三者を座らせてみましょう。 読者が、複利運用で預けておいた定期預金を、満期が到来したので、銀行の窓口で払い戻してもらう場面を想像してみてください。 会計学者は、「お利息は1次関数で計算しました」と説明します。 1次関数というのは、単利計算のことです。 経済学者は、「お利息は2次関数(または3次関数)で計算しました」と説明します。 人工知能(AI)は、「お利息は1次関数・2次関数・3次関数の連立方程式で計算しました」と説明することでしょう。 三者のうち、どの説明が正しいのか、という問題ではありません。 預金者はただ、口をあんぐりと開け、「こいつら、何を考えているんだ!」と呆れ返るだけなのです。