公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:電通問題に見るサービス残業その定性分析と定量分析


電通問題に見るサービス残業
~ その定性分析と定量分析 ~


定性分析や定量分析は元々、化学などの分野で成分分析を行なう手法として用いられるものです。
10年ほど前に多変量解析に関する書籍を読みあさって、次の拙著を書き上げたとき、定性分析や定量分析といった用語そのものは広く応用が利くだろうな、と考えました。 管理会計や経営分析で「定性分析」という場合、「文章だけの分析」をいいます。 ブログやツイッターなどで企業業績を語るのは、定性分析の例です。 文章を連ねたデータ量は膨大なもの(ビッグデータ)となるので、それを解析するのが人工知能AIです。 投信投資顧問会社などが扱うファンドには、ツイッターやブログなどの「文意」をビッグデータとして収集し、人工知能AIで解析して、株価変動を予測するものがあります(日本経済新聞2015年9月26日)。 定性分析と人工知能AIとは、セットだといえるでしょう。 一方、「定量分析」は、有価証券報告書などを用いて、具体的な数値で検証を行なう手法をいいます。 ビッグデータを用いて人工知能AIで解析する作業も定量分析といえるのですが、個々の文章データは、人工知能AIにとって「九牛の一毛」でしかありません。 それに対し、本ブログで扱う定量分析は、次の【資料1】の受賞論文などで著作権を確立したオリジナルの方法なので、人工知能AIは手も足も出せない、という特徴があります。
【資料1】
定性分析と定量分析のどちらが優れているか、というのは問題ではありません。 両者を組み合わせながら、自分なりの結論を導き出すことです。
さて、電通問題です。 昨今、この企業を巡り、サービス残業パワーハラスメントに関する是非を問うブログやツイッターが、ネットで溢れかえっています。 労働基準監督署などには、徹底的な解明を望みたいところ。 この問題に関して気をつけたいのは、「是」を唱える人はおらず、「否」の主張ばかりであること。 是と否が拮抗するからこそ、人工知能AIは、将来の方向性を見すえた判定ができるのです。 みなが「あっちだ!」と主張する世界では、人工知能AIに出番はありません。 そこで本ブログの出番です。 電通有価証券報告書などから、同社のサービス残業が、同社の利益にどれくらい貢献しているのか(社員がどれくらい搾取されているのか)を、以下で定量的に検証してみることにしましょう。
まず、電通決算短信有価証券報告書を眺めていると、「あれれっ?!」と小首を傾げる箇所に出くわします。 「会計知」がないまま、おざなりの経営分析を行なっていたならば、足をすくわれます。 すくわれる前に、踏みとどまるための露払いをしておきましょう。 電通有価証券報告書などで着目したのは、電通で働く「ヒト」という経営資源稼働率は、何パーセントくらいになるのだろうか、という点でした。 実は、「ヒトの稼働率」については、現代の会計理論(管理会計論・原価計算論・経営分析論など)をいくら駆使しても、求めるのは不可能です。 例えば、管理会計原価計算論に関する教科書などでは、直接工の作業時間(直接作業時間)を見積もる計算例が示されています。 教科書の建前では、その時間を基礎に、時間管理システムなどから集めた実際作業時間を割れば、「ヒトの稼働率」を求めることができることになっています。 式で示すと【資料2-図表1】になります。
【資料2-図表1】
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労働基準法などでは、1日の労働時間は8時間(32条2項)、そして1週間の労働時間は40時間(32条1項)と定められています。 これらの時間に従業員数を乗ずれば、【資料2-図表1】の分母を求めることは可能です。 しかし、時間管理システムに入力されない「サービス残業」は、どのように扱うのか。 自宅で行なう「隠れ残業」はどのように扱うのか。 また、社長をはじめとする管理者には、労働基準法の縛りがありません。 彼らの時間についてはどれくらい見積もり、どのように集計すればいいのか。 総務や経理などのバックアップ部門に携わる人たちの間接作業時間は、どのように扱うのか。 有能な人ほど作業時間が短い、という問題は、どのように解決すればいいのか。 カイゼン活動やオートメーション化、技術革新によって、人の配置ががらりと変わった場合、期中ではどのように計算し直せばいいのか。 働く時間の長さではなく、成果に応じて賃金を支払うホワイトカラー・エグゼンプション日本経済新聞2014年7月8日)は、【資料2-図表1】にどう加味したらいいのか。 そもそも電通には、連結ベースで4万人もの社員がいます。 【資料2-図表1】の分母も分子も、実務上、集計が不可能です。 管理会計原価計算に関する教科書に書かれてあることは、実務を知らない学者やその提灯持ちの専門家たちが、頭の中で妄想を繰り返したものであって、企業実務において【資料2-図表1】の通りに「ヒトの稼働率」を求めたりするのは不可能なのです。
批判するからには、対案を示すのがビジネスマナーです。 以上の問題点を、【資料1】の受賞論文にあるタカダ式操業度分析で解決してみます。 次の【資料3-図表 3】は、電通の2014年3月期の四半期データを年間ベースに直して、赤色の点で分布させたものです。
【資料3-図表2】
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【資料3-図表2】の特徴は、赤色の4個の点を複利曲線で繋いでいる点にあります。 これは「企業活動は日々複利の計算構造を内蔵する」という、私(高田直芳)の実務経験に基づきます。 すなわち、現実の企業活動では、次の【資料4】に示す事実を観察することができます。
【資料4】
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。
    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。
    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。
    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。
    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。
    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。
    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。
    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
つまり、企業のコスト構造の本質は、複利計算構造にあることがわかります。 したがって、企業のコストは、直線形ではなく、曲線形(複利曲線)で描かれる必要があります。 それが【資料3-図表2】です。 【資料3-図表2】において灰色の複利曲線で描かれた総コスト曲線は、点B(損益操業度点)で、黒色の売上高線と交差します。 この点B(損益操業度点)よりも右上は、売上高線が総コスト曲線を上回るので、黒字決算となります。 【資料3-図表2】では、点B(損益操業度点)から垂線を下ろしたところに、損益操業度売上高2兆0866億円を示しています。 ここが2014年3月期における、電通の「黒字と赤字の分水嶺となる売上高」です。 点B(損益操業度点)よりも右上にある点Cを、予算操業度点といい、売上高1円あたりの平均コストが最も小さくなるところです。 製造業であれば、点Cが「量産効果の底」になります。 量産効果とは、スケールメリットのことです。 タカダ式操業度分析は、製造業も流通業もサービス業も区別しません。 電通にも「量産効果の底」があることを示すのが、【資料3-図表2】の点Cであり、ここから垂線を下ろしたところに、2014年3月期における電通の予算操業度売上高2兆7519億円を示しています。
私以外の人たちが説く会計理論(管理会計論・原価計算論・経営分析論など)では、【資料3-図表2】にある赤色の4個の点を、1次関数の直線で結びます。 これは預金の利息計算でいえば、単利計算を意味します。 単利計算とは、日々稼いだキャッシュを翌日へ再投資(複利運用)せず、金庫に死蔵してしまうことです。 この単利計算構造で構築された理論を、CVP分析損益分岐点分析・限界利益分析・線形回帰分析)といいます。 損益分岐点売上高、固定費、変動費、限界利益、貢献利益といった用語を見かけた場合、それは単利計算構造のCVP分析に基づいていることを意味します。 20世紀初頭から現代に至るまで、会計理論の基礎をなすものであり、これを「古典派会計学」と呼びます。 先日、東京の丸の内にある大型書店を訪れた際、管理会計や経営分析に関する書籍を一通り見てみたところ、そのすべてにCVP分析が掲載されていて、大笑いしてしまいました。 企業実務を理解しようとしない人たちが、理論の孫引きを繰り返すから、古典派会計学を扱う書籍が、書棚で溢れかえることになります。 2014年8月6日付の日本経済新聞『春秋』で、次の記述を見かけました。
日本経済新聞2014年8月6日)

英国の科学ジャーナリストサイモン・シンは「死は、科学が進歩する大きな要因のひとつなのだ」という。

頑迷な大御所の死とともに、古くて間違った理論が消え去るからである。

CVP分析損益分岐点分析・限界利益分析・線型回帰分析)は「古くて間違った理論」の典型なのですが、厄介なのは、「我こそは第一人者なり」と自負する大御所が、学界や実務界などに何十万人もいることです。 企業活動をつぶさに観察すれば、日々稼いだキャッシュは翌日へ再投資(日々複利運用)されていることがわかるはずなのに。 古典派会計学を振りかざす大御所たちは、机上の空論を繰り返すばかりで、企業実務を理解しようとしないのです。
【資料3-図表2】のタカダ式操業度分析では、「ヒトの稼働率」を導き出すことができます。 ただし、これには、ある仮定が必要です。 それは「電通は、ヒトが資本である」と仮定することです。 メーカーのように有形物の製作に創造性を発揮するのではなく、ヒトの知恵によって無形物を創造するところに、電通の特徴があると仮定します。 2014年3月期における実際売上高は、2兆3094億円でした。 先ほどの仮定をもとに、実際売上高2兆3094億円を、【資料3-図表2】の予算操業度売上高2兆7519億円で割ると、83.9%になります。 この値が、「ヒトが資本である」と仮定する電通の「ヒトの稼働率」になります。 次の【資料5-図表3】の右端に、その値を示しました。
【資料5-図表3】
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【資料5-図表3】では、【資料3-図表2】の予算操業度売上高を一律に100%と置いて、水色の平行線で描いています。 【資料3-図表2】を、ある一定時点(2014年3月期)における「静態図表」とするならば、【資料5-図表3】は10/6(2010年6月期)から、14/3(2014年3月期)までを時系列で展開した「動態図表」です。 【資料5-図表3】において、黒色の実線で描いた実際操業度率は、四半期移動平均で計算した実際売上高を、予算操業度売上高で割った比率です。 緑色で描いた損益操業度率は、四半期移動平均で計算した損益操業度売上高を、予算操業度売上高で割った比率です。 【資料5-図表3】の実際操業度率を見ると、90%前後で推移しています。 電通の「ヒトの稼働率」は、9割という高い比率を維持していることがわかります。 ところが、です。 私(高田直芳)は【資料5-図表3】を見た瞬間に、「この解析結果は、おかしい」と感じました。 「ヒトの稼働率」が9割にも達する職場というのは、ベルトコンベヤーの横に人型ロボットを並べて、午前9時から午後6時まで、カイゼン活動や技術革新もなく、単一作業を延々と行なわせる場合に実現されるものでしょう。 古典派会計学が想定するケースにおいてのみ、実現される値だといえます。 広告業界は、ベルトコンベヤー方式で編み出されるものではないし、人型ロボットの集まりでもありません。 クリエイティブな業界です。 窓外の景色をぼんやりと眺めているときに新しいアイデアを思いつくこともあれば、夜の銀座に繰り出すのもビジネスの一つです。 電通社員の行動は、フレキシブルであるはず。 しかも、サービス残業は膨大なものであるはず。 そうであるならば、「ヒトの稼働率」はもっと低い値になるはずです。 つまり、【資料5-図表3】を作成する基礎となった、電通の決算書の裏に、何らかの意図が隠されている可能性があります。
電通有価証券報告書決算短信を、読み返してみました。 「おや?」と小首を傾げたのは、電通が採用している「オペレーティング・マージン」という経営指標です。 電通のウェブサイト「経営戦略 目標とする経営指標」に登場します。 「オペレーティング・マージン」は、次の式によります。
【資料6-図表4】
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【資料6-図表4】右辺の分母は、なぜ、売上高ではなく、売上総利益なのでしょう。 簿記3級程度の知識があれば、誰もが疑問に感じる「分母」です。 疑問に感じないようであれば、会計知がないのも、はなはだしい。 【資料6-図表4】の式を当たり前のように受け入れてもらっては困ります。 営業利益を売上総利益で割る経営指標など、前代未聞だからです。 拙著『ほんとうにわかる管理会計&戦略会計』(2014年に第2版としています)260頁では、変動利益(限界利益)を営業利益で割る指標を「営業利益の弾力係数」と紹介していますが、【資料6-図表4】の計算構造とはまったく異なります。 電通が示す経営指標なのだから、【資料6-図表4】に間違いはないはずだ」と考えている人がいたとしたら、それはモノの本質を見極めることなく、「権威」や「肩書き」を見ただけで頭(こうべ)を垂れることと同じ。 役人が、人に対して頭を下げるのではなく、机に対して頭を下げることと同根です。 また、電通の「経営戦略 目標とする経営指標」の説明のそこかしこに、売上高ではなく、売上総利益のほうが経営指標の基準として頻繁に用いられているのも、小首を大きく傾斜させます。 決定的だったのは、電通の報告セグメントです。 売上高とセグメント利益との間に、ご丁寧にも売上総利益が表示されていて、「あれれれっ??!!」。 電通は、なぜ、これほどまでに売上総利益に拘るのでしょう。 ヒントは、連結損益計算書の「原価」にありました。 電通のアニュアルレポートなどを参照すると、「当社グループは、広告枠に関して広告主に請求する金額すべてを売上高として計上し、メディア会社に対する支払額を売上原価として計上しています」とありました。 なぁんだ、原価の中味は、「外部委託費100%」だったのですね。
電通と似た会計処理を行なうものに、総合商社の「口銭ビジネス」や、百貨店業界の「うりし(売り上げ仕入れ)」があります。 要するに、外部への「丸投げ」のこと。 一般社団法人生命保険協会『株式価値向上に向けた取り組みについて/調査結果』10ページを参照すると、投資家は「採算を重視した投資や選択と集中」を重視するのに対し、企業は「事業規模やシェアの拡大」を重視する、とあります。 売上高などの規模を大きく見せたい企業の思惑が見え隠れ。 電通は2015年から、国際会計基準(IFRS基準)を任意適用しています。 したがって、「売上総利益」を、「実質的な売上高」と読み取るべきなのでしょう。 そうなると、どうなるか。 【資料6-図表4】右辺の分母を「実質的な売上高」に置き換えれば、「オペレーティングマージン」という経営指標は、単なる「売上高営業利益率」にすぎないことがわかります。 前代未聞でも何でもなかったのでした。 以上が、電通の決算書の裏に隠された意図のようです。 同業他社の決算書にも、同様の意図が隠されているようです。 広告業界の決算書を読むにあたっては、注意すべき事項です。
電通のいう「売上総利益」が、同社にとっての「実質的な売上高」であることがわかりました。 そこで、【資料5-図表3】の「売上高ベース」を「売上総利益ベース」に置き換えて、次の【資料7-図表5】で作り直ました。
【資料7-図表5】
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【資料7-図表5】では、13/6(2013年6月期)以降、黒色の実線で描いた実際操業度率が急伸しています。 これは2013年3月末に、英国の大手広告会社 Aegis Group plc (電通イージスネットワーク)を買収した影響です。 この影響は一年程度で解消され、右端にある14/3(2014年3月期)の実際操業度率が急落しています。 つまり、電通の「ヒトの稼働率」は、【資料5-図表3】で示す90%前後ではなく、【資料7-図表5】で示すように50%~60%である、とするのが、正しい解析結果になります。 「ヒトの稼働率」はおおよそ5割程度のようだ、という解析結果は、テレビ業界でも観察することができます。 日テレホールディングスをはじめとするメディアの実際操業度率が、50%前後で推移していることを傍論として紹介しておきます。 以上のことから、いくつかの仮説が浮かび上がります。 1つめの仮説は、クリエイターたちの、職場での稼働率は5割程度であると。 半分働き、半分遊ぶ。 その遊びの部分に、創造性が育(はぐく)まれると解釈できます。 2つめの仮説は、【資料7-図表5】にある水色の水平線と、黒色の曲線とで挟まれた空間が、サービス残業の正体ではないかと。 5割の逆数は、2倍になります。 すなわち、定時就業時間の倍にもなるサービス残業が、組織内部に存在するのではないかと、タカダ式操業度分析は示唆するのであります。 3つめの仮説は、倍にもなるサービス残業の大半は、外部委託先が背負わされている可能性があること。
従前ブログ『「会計知」や「税知」のない人は社会保険のカラクリに騙される』で述べたように、組織内部で発生するコストは、そのすべてが社員に転嫁されます。 その一方で、組織内部で発生する儲(もう)けは、そのすべてが組織に帰属する。 そのほとんどが、サービス残業に起因する。 タカダ式操業度分析から導かれる、4つめの仮説として提起しておきましょう。
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