公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










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公認会計士高田直芳:東芝の債務超過が非でベンチャー企業が是である理由


東芝債務超過が非で
ベンチャー企業が是である理由


今回は、変則的な話。
今から十年が経過したとき(2027年や2028年)、そのときから遡って十年前(2017年や2018年)の東芝がどういう業績であったかを予想する話です。
キーワードとなるのが、債務超過
次の【資料1:関連ブログ】では、【資料2】に掲げる疑問を投げかけました。
【資料1:関連ブログ】
【資料2】

  1. メディアの報道を見ると、東芝債務超過の金額がバラバラ。
    • 論ずる者によって、なぜ、金額が異なるのか。

  2. 債務超過というのは、ベンチャー企業でしばしば見かける業績。
上記【資料2】1. については、次の拙著90ページから94ページまでを参照。 会計には、財務会計管理会計の2分野があって、【資料2】1. は財務会計に属する話です。 金融機関の多くは「ああだ、こうだ」「国内基準だ、IFRS基準だ」と理屈をこねることなく、純資産をベースにしていることを申し添えておきます。 会計基準策定団体は、重箱の隅をつつきすぎる。
以下では、【資料2】2. に関する話を進めます。 これは、管理会計では債務超過をどのように評価するか、という話です。 【資料2】では、ベンチャー企業債務超過は「是」だと述べました。 しかし、ベンチャー企業でも「非」の場合があります。 是か非かを分ける分水嶺は、どこにあるのか。 まずは「是」の場合から見ていくことにします。
債務超過は、貸借対照表に現われるものです。 これは結果論。 結果が現われるためには、原因があります。 その原因を表わしているのが、損益計算書です。 毎期、赤字が少しずつ累積していって債務超過に転落する場合もあれば、ある年にドカンと減損処理を行なって債務超過に転落する場合もあります。 どのような場合であろうとも、あと少し我慢すればいずれは黒字に復帰し、過去の債務超過は一掃されるだろう、と期待されるとき、現状の債務超過は「是」と評価されます。 上場企業の場合、上場廃止基準というタイムリミットがあるので、あと少し我慢すれば「いずれは黒字に復帰できるだろう」という期待が持てるとき、メガバンクなどの銀行団が一時的に支援する大義名分が成り立ちます。 ポイントは、「いずれは黒字に復帰できるだろう」と期待できる点にあります。
管理会計の教科書でしばしば登場するCVP分析の図表を用いて、その期待とやらを説明しましょう。
【資料3】CVP分析(損益分岐点分析・線形回帰分析)
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【資料3】にある黒色の直線は売上高線であり、赤色の直線は総コスト直線(総費用直線)です。 総コスト直線上にある点Aが、現在の業績だと想定します。 点Aは売上高線を上回っているので赤字決算。 この状態が毎期累積していくと、債務超過に転落します。
【資料3】の中央に、損益分岐点Pがあります。 現在の業績が点Aにあっても、全社一丸となって頑張れば、いずれは損益分岐点Pに到達し、点Pを超えれば無限の利益拡大が保証される。 そうなれば、債務超過など一掃できる。 【資料3】は、そうした期待を持たせるものです。
減損の場合をCVP分析で描くと、次の【資料4】になります。
【資料4】CVP分析 減損のケース
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減損処理を行なうと、総コスト直線(総費用直線)は、赤色の直線から青色の直線へ上方シフトします。 損益分岐点は、点Pから点Qへと遠のいてしまいますが、全社一丸となって頑張れば、いずれは損益分岐点Qに到達し、点Qを超えれば無限の利益拡大が保証される。 そうなれば、債務超過など一掃できる。 【資料4】は、そうした期待を持たせるものです。
メガバンクをはじめとする銀行に、どれくらいの数のMBAホルダーが在籍しているのかは知りません。 数の多寡にかかわらず、彼ら全員が、ビジネススクールや大学院で学んできたのは、【資料3】や【資料4】のCVP分析です。 CVP分析は別名、損益分岐点分析や線形回帰分析とも呼ばれます。 管理会計や経営分析などのノウハウを持った銀行員が、全国で10万人いるとするならば、その全員が「CVP分析は絶対に正しい」と教え込まれてきた理論です。
私がかつて属していた銀行業界へ、アドバイスをしておきましょう。
  • 「なんとかの一つ覚え」みたいに、CVP分析は絶対に正しい理論だと信じて、銀行が債務超過の企業を支援するならば、企業も銀行も共倒れになるリスクがあるということを。
理由は、【資料3】や【資料4】のCVP分析には「理論上の瑕疵」があるからです。
【資料3】や【資料4】で描かれている総コスト直線(総費用直線)は、1次関数です。 1次関数とは、単利計算構造のこと。 すなわち、CVP分析は、企業のコスト構造を、単利計算構造で説き明かそうとするものです。 ところが、現実の企業活動では、次の【資料5】に示す事実を観察することができます。
【資料5】
  • 製造業に勤務する人であれば、工場内の各工程を観察してみてください。
    • 工場内に無数に存在する工程に、材料費・労務費・経費を次々と投入していくと、無限回数の振り替え計算が行なわれていることがわかります。
    • 材料・仕掛品・製品などが入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 流通業に勤務する人であれば、店舗に置かれた商品を観察してみてください。
    • 日々仕入れた商品は、棚に補充したそばから、消費者へ次々と販売されていきます。
    • 膨大な商品が入庫と出庫を繰り返し、コストが徐々に膨張していく姿は、無限回数の複利計算を行なっていることと同じです。
  • 財務や経理に携われる人であれば、手元にある帳簿を観察してみてください。
    • 上場企業のような大規模組織になると、帳簿に記帳される仕訳の数は、1日で数百行や数千行にものぼります。
    • 振り替えの仕訳を含めれば、年間では数億行や数十億行の仕訳の数になります。
    • 入金と出金を無限に繰り返すその様は、無限連鎖の複利計算を行なっていることと同じです。
つまり、企業のコスト構造の本質は、複利計算構造にあることがわかります。 それを単利計算構造の【資料3】や【資料4】で解き明かそうとするのは、「瑕疵ある企業分析」なのです。
単利計算構造の【資料3】を、【資料5】の命題に基づいて複利計算構造で描き直すと、次の【資料6】になります。
【資料6】タカダ式操業度分析
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【資料6】の総コスト曲線上にある点Eを、現在の業績だと想定します。 点Eは、売上高線を上回っているので赤字決算。 この状態が毎期累積すれば 債務超過になります。
【資料6】の中央に、損益操業度点Sがあります。 企業のコスト構造を複利関数で描く場合、「損益分岐点」ではなく、「損益操業度点」と名を改めます。 損益分岐点が「黒字と赤字が分岐する点」と定義されるのに対し、損益操業度点は「黒字と赤字の分水嶺となる点」と定義されます。 これがタカダ式操業度分析の特徴です。 現在の業績が点Eにあっても、全社一丸となって頑張れば、いずれは損益分岐点Sに到達し、点Sを超えれば何とか黒字を確保できそうだ。 【資料6】は、そうした期待を持たせるものです。
ところが、減損となるとそうはいきません。 単利計算構造の【資料4】を、【資料5】の命題に基づいて複利計算構造で描き直すと、次の【資料7】になります。
【資料7】タカダ式操業度分析 減損のケース
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【資料7】は、ある年にドカンと減損処理を行なった場合に限られません。 毎年、赤字が累積していった場合でも、【資料7】にある青色の曲線へ上方シフトすることがあります。
【資料6】や【資料7】で示した「タカダ式操業度分析」は、「机上の空論」ではありません。 【資料7】を具体的に論証したのが、次の受賞論文の15ページ〔図表23〕で描いた、ルネサスエレクトロニクスのケースです。 【資料9】にその概略図を掲げます。
【資料8】
【資料9】タカダ式操業度分析 ルネサスエレクトロニクス
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【資料3】では、総コスト直線(総費用直線)が上方へシフトしても、損益分岐点Qが存在しました。 それに対し、【資料7】では、青色の総コスト曲線が、黒色の売上高線と交わらないので、損益操業度点が存在しない状態であることを確認できます。 【資料9】では、24個の点(24四半期)を基に、総費用曲線を描いています。 この総費用曲線が、売上高線と交わっていないことを確認してください。
【資料7】や【資料9】では、総コスト曲線(総費用曲線)が売上高線に最も近づくところを「近日点」と表示しています。 「水星の近日点移動」が、ニュートン力学ではなく、アインシュタイン一般相対性理論で解明された歴史的事実を拝借しました。 それはともかく、損益操業度点ではなく、近日点が現われるときは、全社一丸となってどんなに頑張ろうとも黒字決算に転換することはなく、債務超過を解消することはできない。 この認識が、最も重要。 【資料9】の横軸上に、「近日点売上高」があります。 この売上高を超えようとする努力は、むしろ傷口を広げてしまうことを、【資料7】や【資料9】で確認してみてください。
話を【資料3】や【資料4】に戻しましょう。 これらの図表は、全国の銀行員10万人が「絶対に正しい」と信じるCVP分析(損益分岐点分析)に基づいています。 絶対的通説ともいえるこの理論から導かれるのは、全社一丸となって頑張ればいずれは損益分岐点に到達し、「黒字に復帰できるのだ」「債務超過を解消できるのだ」という幻想を、企業にも銀行にも抱かせることにあります。 経営危機に直面しながらも、経営者が事業売却に未練がましさを見せるのは、CVP分析に毒されている証拠。 経営者に未練を引き起こさせるのは、現代の会計学が抱える「理論上の瑕疵」が原因です。 それが経営者を惑わせる。 こうした瑕疵を抱えた会計学を、「古典派会計学」と呼ぶことにしています。 【資料6】【資料7】【資料9】は、私(高田直芳)がたった1人で始めた「タカダ式操業度分析」であり、この分析方法を含めた一連の体系を「会計物理学」と称しています。
さて、東芝の業績は、どうなっていくのか。 医療機器事業や半導体モリー事業の売却、そして原発事業からの撤退により、【資料7】にある「近日点」が現われるのかどうか。 原発廃炉事業に、活路を見出せるのかどうか。 東芝の損益操業度点や近日点がどのような位置取りになるのかは、今から十年後に、そこから十年前に遡って、私(高田直芳)が検証することになるのでしょう。 タカダ式操業度分析は、日本だけでなく欧米にも存在しない理論であり、著作権法上、私1人しか扱えないですから。
従前ブログで紹介した書籍『福岡伸一 生物と無生物のあいだ』では、次の文章を引用しました。

雑巾がけ、かばん持ち。あらゆる雑役とハラスメントに耐え、耐えきった者だけがたこつぼの、一番奥に重ねられた座布団の上に座ることができる。

古い大学の教授室はどこも似たような、死んだ鳥のにおいがする。

メガバンクなどの審査部では、さすがに死臭はしないでしょう。 しかしながら、古典派会計学のノウハウで、銀行が、企業の再建策を検討するのであれば、十年後には、不良債権という名の腐臭を放つことを予言しておきます。 そのとき、タカダ式操業度分析を中心とした会計物理学を用いると、近日点がくっきりと浮かび上がることでしょう。
私は別段、東芝を擁護しないし、非難もしない。 実務で役立たぬ会計を、実務で役立つように再構築すること。 具体的な数値をもって、企業業績を公正中立に評価すること。 それらを追い求めるために、会計物理学を創設しました。 立ち塞がるのは、古典派会計学を墨守する権威主義。 たった1人で立ち向かうために、会計物理学は強力な武器となることを、東芝問題で再認識しているのでした。
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