公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:税の損得分岐点/法人税と所得税はどちらの機会損失が小さいか


~ 税の損得分岐点 ~
法人税所得税
どちらの機会損失が小さいか


管理会計や経営分析などの世界では、「法定実効税率」という概念があります。 これは、法人税・住民税・事業税を組み合わせて、法人が負担する税率を計算したものです。
法定実効税率の計算式については、次の拙著を参照。 日本経済新聞では、法定実効税率ではなく、法人実効税率という名称を用いているので、注意が必要。
【資料2:関連ブログ】
名称がどのようなものであろうとも、法定実効税率(法人実効税率)の本質は、「平均税率」であることです。
会計知や税知のない人たちが、しばしば抱く疑問に、次のものがあります。
【資料3】

納税者の視点に立った場合、「所得税が課せられる個人事業」と、「法人税が課せられる会社」とでは、どちらが有利なのか。

上記【資料3】にある「どちらが有利か」というのは、次の【資料4】の関連ブログで言い換えるならば、「どちらが機会損失を小さくできるか」となります。
【資料4:関連ブログ】
注意したいのは、「法人税法定実効税率」と「所得税法定実効税率」とを比較して、【資料3】の是非を問うのは誤りだ、という点です。 なぜなら、次の経済学書の第3原理にあるとおり、「限界費用に基づいて考える」べきだからです。 経済学のいう「限界費用」とは、管理会計では「変動費率」のこと(変動費ではありません)。 また、経済学のいう「限界費用」とは、税法では「限界税率」のこと。 したがって、【資料3】で、「どちらが機会損失を小さくできるか」を問うためには、平均税率(法定実効税率)ではなく、限界税率で判断する必要があります。
平均税率と限界税率は、どのように異なるのか。 まずは、わが国で定められている税率を参考にして、「法人税の平均税率」と「所得税の平均税率」とを、次の【資料5】で描いてみました。
【資料5】「法人税の平均税率」と「所得税の平均税率」
画像
上記【資料5】を見ると、所得(横軸)が1200万円よりも少なければ、個人事業のほうが機会損失が小さい。 それに対し、所得(横軸)が1200万円よりも多ければ、法人成りして会社にしたほうが、機会損失が小さい。 ──という結論になります。
しかし、平均税率で比較する【資料5】が誤りであることは、すでに述べたとおり。 では、「法人税の限界税率」と「所得税の限界税率」とを比較すると、どうなるか。 それが次の【資料6】になります。
【資料6】「法人税の限界税率」と「所得税の限界税率」
画像
上記【資料6】を見ると、所得(横軸)が400万円から900万円の間であれば、個人事業であろうと、法人成りして会社にしようと、機会費用(機会原価)に大差がありません。 つまり、機会損失は、どちらもほぼ同じ。 ところが、所得(横軸)が900万円を超えると、「所得税の限界税率」が、「法人税の限界税率」を大きく上回ることから、この場合は法人成りしたほうが機会損失を小さくすることができます。
以上が、財務省国税当局などが目論む「税の損得分岐点」。 「損益」を問うのではなく、「損得」を問うので、「税の損益分岐点」ではなく、「税の損得分岐点」と呼びます。 【資料6】では、400万円から900万円までの幅(ゾーン)があることから、「損得分岐点」と呼ぶよりも、「損得分岐ゾーン」と呼ぶのが相応しい。
閑話休題、会計知や税知のない納税者は、平均税率で機会損失の大きさを判断してしまうので、法人成りするよりも個人事業のほうが有利なように見えます。 ところが実際は、所得税のほうが、税負担が大きい。 法人税率の引き下げについては経団連などが要望を出していますが、所得税率の引き下げを要望する団体は存在しません。 おまけに、サラリーマンの大半が、源泉徴収されている自身の所得税に関心がないときたもんだ。 所得税が、「とりやすい税制」といわれる所以です。 【資料5】と【資料6】を見比べると、財務省国税当局などは、うまく制度設計しているなぁ、と感心してしまうのであります。
話のついでに、【資料6】の右半分に注目します。 赤色の線(所得税の限界税率)が、青色の線(法人税の限界税率)を大きく上回っています。 これにより引き起こされる経済現象を、2つ紹介しておきます。 1つめは、役員などの個人へ所得分配するよりも、法人に内部留保したほうが、機会損失を小さくできること。 法人の内部留保が積み上がる理由が、ここにあります。 それを押さえ込もうというのが、同族会社などへの留保金課税です(法人税法67条)。 2つめは、所得税率の高さに嫌気がさした高額所得者は、海外へ資産を移転させたほうが、機会損失を小さくできること。 タックスヘイブン租税回避地)に人気が集まる理由です。
法人税所得税に、機会損失を絡めた論点は、ざっとこんなところ。 どちらの機会損失が小さいかは、【資料6】で描いた2本の線の高低差を見比べれば、容易に判断できる話。 これでは、小学生の算数どまりです。 ですから、「税の損得分岐点」そのものは、私(高田直芳)が創設した「会計物理学」では、序の口の段階にすぎません。 会計物理学が目指すのは、有価証券報告書に掲載されている連結貸借対照表連結損益計算書・連結キャッシュフロー計算書などを用いて、企業ごとに「損得」分岐点を求めることにあります。 その会計物理学から導かれた「タカダ式確率微分方程式」という一般公式からは、いくつかの実務解が導かれます。 「企業活動の損得分岐点」は、そうした実務解の1つです。
【関連ブログ】
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