公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座

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公認会計士高田直芳:工数を悪用した水増し請求は粉飾決算の温床


工数を悪用した水増し請求は
粉飾決算の温床


今回は、次の【資料1:関連ブログ】のスピンオフ。
【資料1:関連ブログ】
工数を悪用した水増し請求と、そこから派生する粉飾決算の話です。
女子高校生を主人公とした『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』の感想ブログをアップロードした直後に、難解な会計の話を持ち出す。 こうしたギャップが、本ブログの特徴です。
今回はスピンオフということで、上記【資料1】で説明した意義や図表などは【資料1】を参照してもらうこととし、今回は次の論点を扱います。
【資料2】

  1. 工数を悪用した水増し請求は、どのようにして行なわれるのか。

  2. クライアントに対しては工数を前面に押し立てたセールスを行ないながら、社内のコスト管理で工数が粗雑に扱われるのは何故なのか。

  3. 残業手当の未払い問題は、工数管理を軽視した「監査の失敗」であることを理解しているか。

【資料2】2. にあるコスト管理は、具体的には「部門別計算」といい、次の手順で行なわれます。
【資料3】部門別計算と製品別計算

  1. 縦軸に労務費や製造経費の予算を見積もる。
    →これらのコストを「間接費」といいます。

  2. その予算額をさらに、固定費と変動費とに割り振る。
    →費目別精査法または科目別按分法といいます。

  3. 横軸に、予定される(標準となる)操業度を見積もる。
    →操業度には、生産数量・作業時間・機械加工時間・工数などがあります。

  4. 縦軸の予算額を、横軸の操業度で割って、固定費率と変動費率を求める。
    →2つ合わせたものを、予定配賦率(標準配賦率)といいます。

    ここまでの手順を「部門別計算」といい、以下の手順を「製品別計算」といいます。

  5. 固定費率と変動費率に、実際の操業度を乗じて、固定費と変動費の予定コスト(標準コスト)を製品へ振り替える。
    →これを配賦(はいふ)といいます。

  6. 実際に発生したコスト(実際コスト)を集計する。

  7. 予定コストから実際コストを減算して、固定費と変動費それぞれの原価差額を求める。
    →原価差異分析といいます。

【資料3】の手順は、会計基準で定められているものです。 詳細は、、次の拙著の第12章を参考にしてください。 上っ面の知識で、水増し請求や粉飾決算を批判するのはやめてほしい。
【資料1:関連ブログ】で述べたワイシャツの第1ボタンは、【資料3】1. にあります。 これって、本当に見積もることができるの? 例えば、向こう3か月間(四半期)で、あなたに支給される給与の額を、見積もることができるでしょうか。
  • 残業手当は? 昇給昇格は? 人事異動は?
  • リストラは? 不祥事は? 技術革新は?
  • ノルマを達成した者と未達となった者の格差はどうする?
──等々について、数十人・数百人・数千人について、同じことを見積もり、集計して、【資料3】1. を設定することができますか? 「できるぞ!」という前提で組み立てられているのが、現在の会計制度です。 これを「机上の空論」といいます。
いえ、「机上の空論」でも通用する時代がありました。 会計の仕組みが編み出された草創期です。 それははるか昔、大正デモクラシーの時代に遡ります。
【資料4】
昭和や平成ではないですからね。
当時は、次のことが想定されていました。
【資料5】
  • 作ったものは、すべて売れる。
  • 定時出社、定時退社(残業なし)。
  • 定年退職するまで、同じ職場で同じ作業を行なう。
  • 技術革新はない。
現在でも【資料5】を想定して、【資料3】のコスト管理が行なわれています。 ただし、それは対外的な体裁を取り繕うための建前。 現在の企業活動で、【資料3】のコスト管理を、そのまま行なうのは難しい。 そこで、以下で紹介するような「手抜き」が行なわれます。
【資料4】の操業度に注目します。 これには、生産数量・作業時間・機械加工時間・工数などがあります。 クライアントとの価格交渉で提示される操業度は、工数が圧倒的でしょう。 これは次の式で計算されます。
【資料6】
  • (工数)=(時間)×(人数)
例えば、ある仕事について、1人あたり8時間で、5人を投入する場合、その工数は「40」です。 これを予定工数または標準工数といいます。 実際工数が「38」や「39」くらいであれば問題になりません。
現実はどのような運用になっているか。 人数は5人であっても、時間のほうははるかに少ない実績になっているはずです。 1人あたり3時間で作業を完成した場合、実際工数は「15」になります。 予定工数(40)と実際工数(15)の差である「25」を、クライアントに請求することを、水増し請求といいます。 防衛産業や公共事業を中心に、広く蔓延している手法です。 【資料6】で工数を計算する場合、「人数」を調整するのは難しい。 しかし、「時間」のほうは、いくらでも調整がきく。 これが水増し請求として利用されます。
百歩譲って、予定工数を集計したものを、【資料3】3. の横軸に設定しているのであれば、まだ救いようがあります。 ところが、上場企業のほとんどは、救いようのない状況にあります。 実際に行なわれているのは、手順の省略です。 例えば、あるコストについて、前期の固定費率と変動費率の割合を「50%対50%」としましょう。 当期は「52%対48%」へ変更する。 翌期は「49%対51%」へ変更する。 上場企業の多くで行なわれているのは、「50%対50%」から「52%対48%」へ変更するにあたり、【資料3】1. から 4. までの手順を省略していることです。 また、「52%対48%」から「49%対51%」へ変更するにあたっても、【資料3】1. から 4. までの手順を省略していることです。 【資料3】1. から 4. までの手順をすっ飛ばし、【資料3】5. の固定費率と変動費率だけを毎期、変更するのです。 これを「部門別計算のブラックボックス化」といいます。 ブラックボックスの中は空っぽなので、その中を覗いたところで、予算の「よ」の字もないし、工数の「こ」の字もない。 ワイシャツの第5ボタンだけをとめて、胸をはだけたままで外を歩くようなものです。 企業側が、固定費率と変動費率の割合を「来期から『49%対51%』へ変更します」と主張すれば、会計監査人は「ああ、そうですか」と了承するだけ。 実務経験のない会計監査人は、上場企業から見下されるのを恐れているので、ブラックボックスに手を突っ込む度胸がありません。
以上の問題から浮かび上がるのは、【資料3】1. の縦軸で、残業手当が予定されていないことにあります。 だから、残業手当の未払い問題が起きる。 また、【資料3】3. の横軸で、クライアントに提示した工数が、コスト管理と連動していないことを指摘できます。 だから、上層部の指示によって、残業時間が書き換えられるのです。 水増し請求も容易に行なわれるのです。 これらは利益の過大計上になっているのですから、立派な粉飾決算であり、「監査の失敗」です。 それとも、仕訳として表わされないものは「監査対象ではない」のでしょうか。 仕訳のチェックだけなら、人工知能AI に任せればいいのであって、ヒト(会計監査人)の出番はありません。
東芝問題により、監査法人もその尻に火が付いたか。 昨今、会計監査人から「部門別計算(縦軸と横軸)の見直しを行なうように」という申し渡しが、あちこちの上場企業で行なわれているようです。 (申し渡しができない腰抜けでは、先が思いやられる) ブラックボックスの中が空っぽであることを暴かれたくない企業の側は、「何をいまさら」と、会計監査人からの要求を突っぱねるのでしょう。 会計監査人からすれば、「オレ(会計監査人)たちは、予算や操業度の見直しを要求した。見直しをしないのは、企業側の責任だ」と言い張るのでしょう。 人工知能AI だ、何だかんだと騒ぎながら、上場企業で行なわれているコスト管理なんて、この程度。 上場企業に問うてみたい。 固定費率や変動費率を、コチョコチョといじり回すことを、原価計算だコスト管理だと、胸を張っていえるのか。
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