公認会計士高田直芳 会計物理学&会計雑学講座










はてなブログは、ウェブリブログのバックアップ用であり、更新には数日の遅れがあります。

はてなブログ内のリンクはすべて、BIGLOBEウェブリブログへ接続します。

公認会計士高田直芳:脱時間給の時代に背を向ける会計基準


脱時間給の時代に背を向ける会計基準

このところ、脱時間給に関する議論が喧(かまびす)しい。
【資料1】日本経済新聞『大機小機』2017年7月22日

長年の課題であった「脱時間給」制度が、ついに実現する。(略)

高度な知識を活用して働く社員には、成果に見合った報酬と処遇を与えるのが先進国の常識である。

工場労働者等と同様に、労働時間に比例した賃金を支払わなければ過労死を防げないとの論理を、英語で説明するのは甚だ困難である。


【資料2】日本経済新聞2017年7月22日

民進党の支持団体で、約680万人の組合員を抱える連合が揺れている。

執行部が「脱時間給」制度を盛り込んだ労働基準法改正案をめぐって安倍政権と協調姿勢をとったことに、傘下の労働組合が強く反発しているためだ。

「脱時間給制度」の別名は、「ホワイトカラー・エグゼンプション white collar exemption」。 「脱時間給」という時代の流れを止めることはできません。
【資料3】日本経済新聞『ニューモノポリー米ITビッグ5(下)置き去りの労働者』2017年7月15日  230万人対66万人。  スーパー世界最大手のウォルマートと、4月に米市場の時価総額の上位に並んだITビッグ5(アップル、アルファベット=グーグル、マイクロソフト、アマゾン・ドッド・コム、フェイスブック)合計の従業員だ(米国外を含む)。  5社が束になっても、ウォルマート1社の3割に満たない。(略)

新たな技術は新たな需要の母となり、新たな仕事を生んできた。  だが蒸気と電力による人海戦術型の産業革命を経て、コンピューター化による第3次革命で潮目は省力化へと変わった。  人工知能(AI)を軸とする第4次革命で少数精鋭の傾向はもっと強まる。

こうした変化に取り残された低技能の白人労働者層の不満が、トランプ政権を生み出した。

上記【資料2】にある「反発」と、【資料3】にある「不満」は同義でしょう。 反発や不満がどれだけ渦巻こうとも、あと数年もすれば、ニッポンの労働法制において、脱時間給制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)は、当たり前の制度となっているはずです。
ところが、十年どころか、あと百年経っても、脱時間給が、制度として盛り込まれないと予想されるものがあります。 ニッポンの会計制度です。 企業会計審議会が制定した会計基準原価計算基準』を読むと、次の特徴を指摘できます。
【資料3】

  1. 間接労務費よりも、直接労務費の割合を高く想定している。

    →上記【資料3】にいう、産業革命以降の人海戦術型を基礎とする。

  2. 直接労務費にしろ製造間接費にしろ、基準操業度を「時間」に置いている。

    →『原価計算基準』にいう配賦率の本質は、時間給である。

ファクトリーオートメーション(Factory Automation)や、オフィスオートメーション(Office Automation)が普及する現場で、いまだに人海戦術型が通用すると考えているのが、ニッポンの会計基準。 脱時間給制度によって成果主義が基準操業度として採用されつつあるというのに、時間給(配賦率)を墨守する意義があると考えているのが、ニッポンの会計基準です。 なお、「配賦率って何?」と疑問に思う向きは、次の拙著35ページを参照。 時間給を採用するメリットとしては、予算を立てやすい、というのがあります。 時間の上限は、24時間だからです。 その時間を、人数に見立てたのが、いわゆる工数基準。
【資料4:関連ブログ】
原価計算基準』では、次の手順で配賦率を求めることとしています。
【資料5】

  1. 部門別や工程別に、間接労務費や間接経費を測定し、製造間接費として集計すること。

  2. 部門別や工程別に、時間を測定・集計すること。

  3. 上記 1. を 2. で割って、配賦率を算定すること。
ところが、上場企業で実際に行なわれている実務は、おおよそ次の通り。
【資料6】

  1. この十年以上もの間、部門別や工程別に、間接労務費や間接経費を測定・集計したことがない。

  2. 時間管理ソフトはあるが、それを部門別や工程別に測定・集計したことがない。
一時期、統計学がブームになったことがあります。 ただし、上場企業のコスト管理で、標準偏差正規分布曲線を理解しているホワイトカラーは皆無といっていい。
【資料7】
では、上場企業で採用されている配賦率とはどのように算定されているのか。 前期の配賦率そのものを、毎期、微調整しているだけなのです。 前期の配賦率に、10円を加算したり、20円を減算したり。 部門別や工程別に製造間接費や時間を測定・集計して配賦率を計算しているわけではありません。 ひどいケースになると、十年以上、配賦率が不変の企業もあります。 嘘だと思うなら、上場企業の経理部や財務部に確かめてみるといい。 上記【資料6】の通りだから。 知らぬは、役員ばかりなり。
【資料8】
現場の実態を知らぬ役員は、監査法人を見下すことになります。
なぜ、そうした事態が放置されているのか。 ひとえに、人海戦術型や時間給を基礎とした会計基準原価計算基準)が、いまだに上場企業などで跳梁跋扈しているからです。
【資料9】
批判するだけなら、TVのコメンテーターに成り下がってしまう。 対案を示すのが、実務家としての矜持であります。 次の受賞論文の26ページに、人海戦術型を廃し、脱時間給に対応したコスト管理の対案(タカダ式変動予算)を説明しています。
【資料10】
新日本法規財団 奨励賞 受賞論文
『会計学と原価計算の革新を目指して』(PDF 32枚)
執筆者(受賞者)公認会計士 高田直芳

上記【資料10】の受賞論文が理解されるのは、来世紀(22世紀)以降になってからでしょう。 労働法制が「脱時間給」へ舵を切ろうとも、ニッポンの会計基準は過去百年間、そしてこれからの百年間、ずっと「アンチ脱時間給」を唱え続けることになりそうです。 まさに、古典派会計学と呼ぶに相応しい。 時代の流れに背を向ける古典派会計学の、なんと愚かなことか。
広告を非表示にする